CuboRexラボ訪問!自分が欲しいものは自分で作るのが当たり前の世の中にしたい

 
6月某日、株式会社CuboRexに訪問してきました。
CuboRexさんは不整地で使えるガチなレゴ*を作り、不整地産業の課題を解決するために「ねこ車電動化キット」や小さな「クローラ動力ユニット」を開発し、製造販売しています。今回は東京都荒川区にある東京ラボを訪問し、製品やラボの見学、開発経緯などじっくり取材させていただきました。その様子をお届けします!
*レゴはレゴブロックのことを指しています。「レゴ」はLEGO Groupの登録商標です。

マンション街に現れた「工場入口」の文字。そこは・・・

南千住の駅から、株式会社CuboRexの東京ラボがあるという住所に向かう取材班。マンション街を歩いて到着したのは、「工場入口」という看板のある白い建物でした。CuboRexさんが入居しているその建物は、「白鬚(しらひげ)西R&Dセンター」といい、研究開発型の創業支援施設だそうです。
 
2階へ上がり、取材班がラボの前に到着すると、ちょうどラボの前でCuboRexの方々が作業されていました。尋ねると、東京ビッグサイトで行われている展示会に出展するため、製品を車に積み込んでいるところでした。
 
 
さっそくラボの前のスペースで、代表取締役CEOの寺嶋瑞仁さん開発担当の寺澤元則さんに製品の紹介と実演をしていただくことになりました。
 
 
まずご紹介いただいたのは、「E-Cat kit(イーキャットキット)」
 
E-Cat kitはねこ車(一輪車・手押し車などとも呼ばれる)のタイヤ部分に取り付けることで電動化できるキットです。重いものを運ぶ際、バランスが取りづらい傾斜面やでこぼこした道でも楽に進むことができます。代表の寺嶋さんがみかん農家でアルバイトしていた際、収穫したみかんを積んだコンテナを乗せ傾斜のある道を運ばなければならず、大変苦労したことが開発したきっかけの一つでもあるそうです。
E-Cat kit : CuboRexさんご提供
E-Cat kit : CuboRexさんご提供
 
これがE-Cat kitです。直径約32cmで、重さは約5kg両手で持つことができるサイズです。日本で最も一般的に流通しているねこ車のタイヤに合うように設計されているため、お手持ちのねこ車に後付けするだけで電動化することができます。
 
 
実にコンパクトな見た目ですが、どのくらいスムーズに動くのでしょうか。20kgのおもりを入れたねこ車で障害物を乗り越えられるか、ものづくり新聞編集部も体験させていただきました。
 
 
はじめにE-Cat kitをオフにした状態、つまり通常通りで試してみました。重量物を載せながらだとバランスも取りづらく、力を込めても乗り越えることができませんでした。
 
つづいてE-Cat kitオンにしてみます。手元に付いているレバーを握るとタイヤに動力が伝わる仕組みです。恐る恐る握ると、20kgの重さを感じないほど自動で前に進んで行きました!レバーを握りバランスを取るだけで進んでいくため、強い力は不要です。
 
さらに、E-Cat kitを取り付けたねこ車に、別売の立ち乗り用台車(ねこのしっぽ)を取り付けると、人間も乗れるようになるといいます。
 
 
オレンジのタイヤがついている台が、人間が立って乗る部分です。操作はE-Cat kit同様持ち手のレバーを握ることで前進します。こちらも編集部で体験させていただきました。
 
Photo by KAZUTOMO OHIRA
Photo by KAZUTOMO OHIRA
 
女性でも難なく乗りこなすことができます。立ち乗り台も安定していて、60kgくらいの体重の人も楽に運べるというくらいパワーがあります。電動でかつ非常に小さなユニットでこのパワーを実現するためにさまざまな工夫がこのユニットの中には隠されているそうです。寺嶋さんは、「内部は見せられません」とおっしゃっておられました。
 
 
会話も弾み、気付けば小一時間ほど立ち話してしまいました。しかし、聞けば聞くほど興味深いエピソードばかりです。ラボの一角にて、寺嶋さんにインタビューさせていただきました。
株式会社CuboRexが『不整地のパイオニアとして欲しい者が欲しい物を生み出し試せる社会』を目指す理由や開発の経緯製品へのこだわりや、代表寺嶋瑞仁さんの思いに迫ります。
 

ものづくりに親しみ ロボコンに夢中の学生時代

Photo by KAZUTOMO OHIRA
Photo by KAZUTOMO OHIRA
 
寺嶋瑞仁さん Mizuhito Terashima 和歌山県有田市出身 幼い頃からものづくりが好きで、和歌山高専時代はロボコンに熱中する傍ら、みかん農家でアルバイトをし「不整地」と出会う。和歌山高専5年時に長岡技術科学大学に進学し、在学中に株式会社CuboRexを創業。
 
🗞高専時代から本格的にものづくりを始めたとのことですが、幼い頃はどんなお子さんだったのでしょうか?
「母曰く、屁理屈をこねる子どもだったらしいです。笑 ものづくりは子どもの頃から好きで、ナイフや、弓矢やチャンバラ用の棒などのおもちゃを手作りしていました。海上自衛隊の技術士官だった母方の祖父に作り方を教えてもらっていましたね。」
 
🗞お祖父様からものづくりを学んだんですね。
「祖父だけでなく両親も含めてものづくりが当たり前な環境だったんですよね。実家がお寺なんですが、仏壇仏具を自分たちで作っていたので、ものを作ることはごく普通の感覚でした。」
 
🗞仏壇仏具を自分たちで作る?!
「仏壇や仏具って、すごく高額なんですよ・・・。年に1回しか使わないのに数百万円することもあるんです。でも必要なので、自分たちで作るというのが当たり前でした。特に母が得意で、独学でものづくりしていました。」
 
🗞ものづくりが好きなのはお母様の影響もあるのですね。
「そうですね。自然豊かな場所で生まれ育ったこともあり、材料がそこらじゅうに沢山あってそれを使って遊び道具を作るというのは自然なことでした。あと、本が好きで両親が沢山与えてくれました。三国志などの歴史にまつわるものや、ラバウル烈風空戦録などの架空戦記が好きでした。」
 
🗞本を読んだり、手先を動かしてものづくりすることがお好きなお子さんだったんですね。高専時代はロボコンに夢中だったのでしょうか?
高専時代はロボコン中心の生活でした。小学生の頃、ロボコン競技を見る機会があり、動いているロボットを初めて間近で見て感動したんです。その時から自分も動くロボットを作ってみたいと思うようになり、実際に高専に進学してロボット開発をしていました。ロボコン優勝はもちろん夢でしたが、とにかく動くロボットを作ることに夢中でした。」
 
Photo by KAZUTOMO OHIRA
Photo by KAZUTOMO OHIRA
 
🗞どんなロボットを作っていたのでしょうか?
「2年時には機械設計者として、人を乗せて二足歩行するロボットを作り全国大会で準優勝することができました。初めての歩行ロボットで苦労したのを覚えています。」
 

大学在学中にCuboRexを創業

🗞その後長岡技術科学大学に進学され、雪国用の乗り物を作られているそうですね。
CuBoardという雪上をキャタピラで移動できるスケートボードを開発しました。大学と寮の移動にバイクを使っていたんですが、冬はバイクを乗ることができず移動に困っていました。雪の中移動するのは結構大変で困っていたので、自分で何とか解決できないかなと思ったのがきっかけです。」
 
🗞CuBoardの開発はお一人でやられていたんですか?
数人の優秀なエンジニア仲間と開発していました。今振り返るとハードスケジュールな開発だったので、当時の仲間には本当に感謝しています。」
 
🗞CuBoardが事業として継続されていないのは何か理由があるのでしょうか?
「理由の一つは、量産に挑む目処が立たないくらい独自構造になっていたことです。当然製品を販売した経験もなく、コストや仕様を詰め切ることもできませんでした。あとは、運用ができないことがわかったという理由もあります。」
 
🗞運用ができないというのはどういうことでしょうか?
CuBoardを道路や歩道で走らせる上での法律がなく、それがボトルネックになり開発資金が得られないという問題がありました。なんとか突破しようと、経済産業省のサンドボックス制度を利用して規制の改善や改革を申請しましたが、法律上許可できないという回答でした。」
 
🗞法律の制約で実現できないのは技術者として腑に落ちないですよね。
世の中にとって便利なのに既存の制約があるのならば、世の中を変えるべきというタイミングもあると思います。”こんなに便利なものなのに、それを成約する法律のほうがおかしいよね。”と言われるようなプロダクトを生み出すことができればなお最高ですね。」
 

ユニット販売という選択

🗞なるほど。その次に取り組まれたのはどんな事業でしょうか?
クローラーユニットやE-Cat kitの事業ですね。CuBoardを開発する過程で徐々に駆動システムの知見が積み重なっていました。とはいえ他にどういう課題を解決するプロダクトを作るべきか確信がありませんでした。そこでまずは自分たちが培ってきた要素技術を販売するという体制作りを進めていくことにしました。」
 
 
🗞経験も知見もある駆動システムだけを販売するという発想ですね。
「高専時代、”現場に対してコアとなるモジュールだけを提供して、現場で作り上げるシステム開発”という研究テーマを持っていました。現在CuboRexで販売している製品の特徴でもある、現場で必要な形に作り上げて活躍できるものという発想です。当時の論文を読み返して、あの時こんなこと考えていたんだ!と立ち戻る形になりました。また、CuBoard開発中にユニットだけ提供して欲しいという声があったことも背中を後押ししてくれました。」
 
🗞当時掴めていたニーズはどういった業界でしょうか?
研究機関向けのニーズは掴めていました。私自身が研究者でしたから。研究の際にユニットだけ手に入れられれば、その先の開発や検証から研究をスタートさせることができます。そういった方々に受け入れられていました。」
 
🗞なるほど。研究者からのニーズは掴めていたんですね。そして、実際提供してみたら研究機関だけでない需要も発見したという流れですか?
「徐々に農業実務者も求めていたということが分かってきました。農業機械を研究している農業食料工学会の学会に登壇させていただいた際、ここに貢献領域があるのかと発見しました。その後実際に農業食料工学会の方々に購入していただきましたね。」
 
🗞研究機関向けにリリースしながら、実務でも活躍できることがわかりユーザーさんが徐々に伸びていったということなんですね。
「はい。研究機関向けからスタートし、実際の農地や現場でも使えるよう改良を重ねてきたのが現在のCuGoです。これは3代目になります。」
 
現在発売されているCuGo Photo by KAZUTOMO OHIRA
現在発売されているCuGo Photo by KAZUTOMO OHIRA
🗞一番の改良点はどこですか?
防水防塵と履帯、車体の構造の3点ですね。キットとしてユニットを販売するという私たちのやり方だと、クローラーの中に収めた上で防水防塵機能を持たせなければいけません。それがとても難しかったです。現在のモデルは丸洗いとはいえませんが、水洗いや水があるところでの走行が可能なレベルまで改良しています。」
 
🗞農地での活用だと水洗いは必要ですよね。履帯、車体の構造というのは具体的にどの部分でしょうか?
「まず、私たちが目指す”不整地で使えるガチなレゴ”というものは、単一で使えるユニットである必要があります。元々こういった動力システムはユニットという概念がないので、ユーザーさんが自由に連結できる構造を実現するために機能や構造を改めて考えていきました。」
 
Photo by KAZUTOMO OHIRA
Photo by KAZUTOMO OHIRA
 
🗞なるほど。制御のモジュールも内部に組み込まれているんですか?
「組み込んでいた時期もありますが、外部に出すことにしました。振動などを考慮した今のところの最終結論ですね。」
 
🗞改良を重ねられているとのことですが、その際にユーザーさんの声やフィードバックが反映されているということはあるのでしょうか?
 
左がV2、右が現在発売されている最新モデル
左がV2、右が現在発売されている最新モデル
 
「あります。開発や改良項目があっても、常に現場に行って事情を熟知しているわけではないので、我々だけだと優先度付けが難しいんです。このV2は以前のモデルですが、例えば履帯部分がABS素材でできています。平地は問題なく走行できますが、傾斜では滑ってしまうということでゴム素材に改良しました。」
 
🗞他に改良でユーザーさんの声が取り入れられた部分はありますか?
下部のフレームを廃止した点ですね。木の根っこや石に引っかかってしまい走行の妨げになっていました。開発中の次期バージョンでは防水防塵性能も上がります。」

”自分で使うものを自作するのって当たり前だよね”な世の中へ

🗞今後CuboRexさんが目指していく将来像を教えてください。
2030年まで、特に不整地産業に関わる方々が”自分で使用するものは自分で作って使うのは当たり前だよね”と思える社会になっていることを目標にしています。現在当たり前にスマートフォンを利用していますが、これが昔だったら珍しかったですよね。それと似ていて、例えば現在E-Cat kitを使っている人は珍しくても、それが当たり前になって何も珍しくないという世の中を目指しています不整地産業の方々が、作る作物や季節に合わせて当たり前にカスタマイズしていくようになれば、世の中に貢献していると更に胸を張って言えると思います。」
 
🗞2030年までの期間、目標を達成するためにどういったことを成し遂げていこうと考えておられますか?
「現在発売されている製品をもっと分かりやすくするために用途ごとにレゴやプラモデルのパッケージの状態にして販売していこうと考えています。パッケージ化できれば、出来上がりの完成図を想像しながら自作して、とりあえず使ってみてから他の人の事例を参考に改良することができます。誰にでも使ってもらえる形で提供して、当たり前に使ってもらえるようにしていきます。」
 
🗞用途に合うように変えて自分に合った形にしてもらうため、パッケージ化して引き続き提供していこうとお考えなのですね。
「私たちの場合、どういったパッケージにした方が良いかということは、ユーザーさんが示してくれるんですよ。例えば有田市のみかん農家で収穫用のねこ車にE-Cat kit取り付けているというのも、ユーザーさんがいるからこそ分かった用途です。実際に自分もユーザーとしてこうだったらいいのにという気持ちがあり開発したところもありますし。次のヒントを沢山いただいているので、ユーザーさんのことを開発仲間と呼んでいます。開発仲間とパッケージ化に向けて動いていきます。」
 
🗞利用者ではなく、開発仲間。そうなるとユーザーさんとの密接な関わりが大事になってきますよね。
「そのためにFacebookでコミュニティーを運営しています。今後はもっとユーザーさんによる活用事例を集めて、役に立つというビジョンが見えるようにしたいです。SNSで自分の作ったものをシェアして輪を広げていくようなイメージですね。」
 
Photo by KAZUTOMO OHIRA
Photo by KAZUTOMO OHIRA
 
🗞他に2030年に向けて取り組もうとされていることはありますか?
「更に2030年に向けて、RaaSモデルに対応したアプリケーションを構築することです。従来の物売り的な仕組みではなく、RaaSモデルにしていくことで、継続的な利用とフィードバックをいただき、私たちも継続的にアップデートやサポートをさせていただくという体制です。」
RaaS (Robotics as a Service)ロボットに必要な制御システム、メンテナンスやソフトウェアのアップデートといった機能全般をクラウド環境にて提供する運用形態
 
🗞パッケージ化しつつ、ロボットをサービスとして提供しようと考えておられるのですね。
パッケージ化製品とRaaSモデルの両輪でやっていくつもりです。パッケージ化だけを進めても優先開発項目がわからないですし、RaaSモデルでサービス提供だけ注力していても開発のボトルネックが発生してしまいます。どっちかではなくどっちもある業態こそ発展していけるだろうと考えています。」
 
🗞最後に読者の方々に向けてメッセージをお願いします。
「自分が本当に欲しいと思うものや知りたいことを見出し、その実現や解明に向けて夢中になって欲しいです。まずは自分の目指すゴールを見つけることだと思います。進めていくうちに壁があった時も、スタートが自分が欲しいものを作るためであれば、モチベーションも保ちやすいのではないでしょうか。私自身が夢中になれたからこそここまで続けてこれたと思いますし、”CuboRexのビジョン"に向かって共に歩んでくれる仲間がいて本当に楽しいです。」
 
Photo by KAZUTOMO OHIRA
Photo by KAZUTOMO OHIRA
 
 
編集部より
CuboRexさんのラボは至るところに機械や部品があり、秘密基地のような雰囲気でした。製品を体験させていただいた際、はじめは想像以上にスピードが出たことに驚きましたが、数十秒で怖さも消え乗りこなせるようになりました。CuboRexさんが大事にしていることの一つである、誰でも使える製品であるという部分を体感したような気持ちでした。
「自分にとって本当に欲しいものの実現に向けて夢中になってほしい」という言葉は、どんな場面でも必要なものはどうにかして自分たちで作れないだろうか?と探求してきた寺嶋さんだからこそ響く言葉だと感じました。
CuboRexさんの製品にご興味のある方がおられましたら、編集部のご相談窓口までご連絡ください。まだ直接相談する段階ではない、製品以外のことも知りたい、という方もお気軽にご連絡ください。