【前編】お茶やみかんだけじゃない!初開催!ファクハク 静岡工場博覧会体験レポ
2024年01月17日 公開
今回取材をさせていただいたのは、静岡県静岡市全域で開催されたオープンファクトリーイベント「ファクハク 静岡工場博覧会」。
静岡県と言えば、お茶やみかんを想像される方も多いのではないでしょうか。
実はこの静岡県、工場の数は全国で5位、工場出荷額も全国で4位ということで、非常にものづくりが盛んな地域なんです。
その理由のひとつが、あの戦国武将、徳川家康の存在。
徳川家康は、駿河国(現在の静岡県)を拠点に活動した期間が非常に長く、実に生涯の3分の1を静岡県で過ごしたと言われています。
また、駿府城の築城や神社の修繕などのため、全国から優秀な職人たちが駿府に集められ、それから何世代にもわたり、ものづくりの技術が受け継がれてきました。
そんなものづくりのまちである静岡県静岡市で、2023年初開催を迎えた「ファクハク 静岡工場博覧会」。その特徴や魅力を前後編に分けてお届けします。前編の今回は、マグロを活用して肥料を製造する伊豆川飼料株式会社の工場見学の様子とインタビューをついてお届けします。
ファクハクとは?
11月17日(金)から11月19日(日)まで3日間開催された「ファクハク 静岡工場博覧会」は、(※以下ファクハクと記載します。)開催期間中、実際の工場を開放し、参加者が工場の現場に自ら足を運べる「ツアー型オープンファクトリー」です。
ものづくり新聞では、ファクハクの開催前に実行委員会の皆さんに取材をし、開催に至る背景やファクハクへの想いを別媒体の『MONOist』に掲載しております。記事は以下よりご覧下さい。
シンボルマークは緑の三角形
ファクハクのシンボルマークは緑の三角形です。このシンボルマークには光が差し込む工場のシルエットが表現されています。また、三角形の二辺の広がりは光がどこまでも広がる、参加している様々な企業同士がつながって欲しいという想いを込めているそうです。会場のあちこちにシンボルマークが点在しているとのことだったので、探しながら取材先に向かいたいと思います。
清水駅の改札を降りてすぐの柱にファクハクのチラシを発見しました。この他の柱にもチラシが貼ってあり、遠くからでもテーマカラーの明るい緑が存在感を放っていました。
現地に到着!ファクハク体験スタート!
初開催のイベント初日、生憎の空模様でのスタートとなりましたが、気を取り直して出発したいと思います!晴れていれば富士山が目の前に広がってるはず…でした!
目的地に向かうと緑の三角形が印象的なファクハクののぼりがありました。こののぼりがファクハクに参加している企業の目印のようです。
ファクハクパンフレットをいただきました。パンフレットはファクハク実行委員を務めるナガハシ印刷株式会社と、アートディレクター小林大輝(こばやし だいき)さんの合作だそうです。テーマカラーの緑を基調としたデザインで目にも優しく感じます。
伊豆川飼料株式会社で“マグ活”を学ぶ
編集部一行が訪れたのは伊豆川飼料株式会社です。
「魚粕(ぎょかす)」と呼ばれる、魚を主原料とした肥料や飼料を製造する創業70年以上の会社です。静岡県と漁業のつながっているのか?早速工場見学ツアーでその真相に迫りたいと思います。
「マグロを食べて、マグ活しようぜ!」そう話すのは伊豆川飼料株式会社 取締役の伊豆川剛史(いずかわつよし)さんです。ファクハクの実行委員も務めており、工場見学ツアーも担当されています。
伊豆川飼料は、ツナ缶を製造する過程で発生した、マグロの頭や骨といった非可食部分を原料として魚粕を製造しています。様々な肥料と組み合わせた配合肥料、飼料原料を作る、漁業と水産加工業との関わりが深い会社です。
どうしてマグロを使って肥料を製造するのかというと、静岡県を代表する漁港のひとつである清水港は、冷凍マグロの水揚げ率が日本一と言われており、世界中からまぐろが集まる「マグロの町」として、肥料としても活用できるほどのマグロの量に恵まれたからです。1600年代から江戸と大阪を結ぶ重要な港として栄え、1900年代にアメリカとの輸出入が始まると、豊富に水揚げされたマグロの有効活用法として日本で初めて「ツナ缶」が開発されたそうです。
国内におけるマグロのツナ缶シェア率は97%、かつおのツナ缶は驚異の100%なんだそう!マグロの町でもあり、水産加工業に特化した町といっても過言ではありません。
ツナ缶豆知識・・・ツナ(tuna)はスズキ目サバ科マグロ属に分類される魚の総称です。欧米では用途が同じかつおのことを「skipjack tuna」と訳します。日本でもマグロ類を総称してツナとまとめて呼んでいます。参考資料:魚がもっと好きになるウェブマガジンumito.
静岡の漁業と水産加工業について学んだ後は、いよいよ工場見学ツアーです。ツアーの前に、企業研修としてイベント協力に入られている、JA静岡中央会と静岡鉄道株式会社の若手社員の方々から、見学での注意事項について説明を受けました。資料は今回のためにこの方々が作成したそうです。
工場内までに屋根がない箇所があったため、傘をさしてくれました。こういった気遣いは見習わないといけませんね。工場見学ツアーへのワクワク感も増しました。
工場内に入ると、頭上には番号が書かれた大きな機械が7本並んでいました。この中にできた飼料が入れられていきます。1本あたり約20t保管できるそうです。
奥に山のように積み上がっているのは、これから飼料用の魚粕にするための資材です。
魚粕にするための機械の中では、50本もの「ハンマー」と呼ばれる棒が回転して資材を砕いていきます。その途中には「スクリーン」という網が層になっており、粉砕された資材をふるいにかけて不要物を取り除いていきます。
不要物にはマグロを縛る紐や機械の部品が混ざっていたり、中には釣り針が混ざっていることもあるそうです。
不要物が取り除かれ、飼料用の魚粕になりました。完成した魚粕は、原料の一部として他の材料とブレンドしていきます。肥料用途の場合は更に細かく砕いて粉状にするそうです。完成した飼料は魚の養殖用やペットフード用、畜産農家用など用途ごとに分けて生産者の手元に届きます。
魚粕がブレンドされた状態です。
魚粕をブレンドした飼料はにおいもあまりなく、サラサラと冷たい触り心地で砂浜の砂のようでした。
次に案内して頂いたのは肥料のラインで、袋詰め作業をして商品になる工程です。工程は自動化されており、「パレタイザー」というロボットでベルトコンベアーから流れる商品を台に規則的に積み上げていきます。
工場見学ツアーの最後は「つなサイクル」について学びました。
魚粕を使用した肥料は有機肥料に指定されており、美味しい農作物を育てることはもちろん、有機物を含んだ豊かな土壌から流れる水は、海を汚しません。綺麗に保たれた海でマグロが育ち、加工されてツナ缶となり、非可食部分も捨てられることなく魚粕となり、魚粕を含んだ有機肥料によって農作物となっていきます。
その循環を「つなサイクル」と呼び、自然にもよい影響をもたらすことを期待して発信に力を入れています。
マグロを食べること、ツナ缶を食べること、どちらも静岡県の漁業、水産加工業、農業を支えることにつながっているのがわかりました。
「マグ活しようぜ!」という伊豆川さんの言葉の意味が胸にストンと落ちたように感じます。
国内でのマグロのツナ缶シェア率が90%以上ある一方で、安価や大量生産などの理由で輸入のツナ缶が主流となりつつあり、「つなサイクル」は危機を迎えています。国内で作ったツナ缶を美味しく食べてもらいたい、つなサイクルを知ってもらいたい、そんな想いから伊豆川飼料では自社ブランド商品『とろつな』と『しろつな』を開発し販売しています。淡い色合いにシンプルな魚のイラストが可愛く、思わず手に取りたくなる商品です。
ファクハク開催期間はその場で購入することができました。初回はおつりが足りなくなるくらい、その場にいた参加者のほとんどの方が購入をしていました。
また、主力製品である「魚粕」肥料を使用した生産物の魅力を広く知ってもらうために、家庭菜園向け肥料「TUNA−GOU(つなごう)」も提携している店舗とオンラインショップで販売しています。
自社ブランド商品を手に持ち笑顔が素敵な若手スタッフ3人。つなサイクルを教えてくれたり、参加者からの質問に親身になって対応していたり、伊豆川さんと連携しながら工場見学ツアーを進める姿が印象的でした。
この方々は、若手社員研修の一環でファクハクを盛り上げる一員として事前準備から当日の運営まで活動されていました。
実はメンバーも担当する企業もランダムで、3人は半年前に挨拶をしたばかりなんだそう。本業の傍らで説明資料を提案して作成したり、当日の動きを考えたりされたそうです。
他の業種の企業も入って一緒にイベント作りをされたことで、運営や見せ方に客観的なアイデアが入りわかりやすかったのではないかと感じました。
開催初日の初回ツアーには、平日の午前中にも関わらず、なんと15名ほどの参加者が集まっていました。工場見学ツアーが終了し、ほっと一息つかれたところで、伊豆川さんに率直な感想を伺いました。
ーー初回お疲れ様でした。賑わっていましたね!
伊豆川さん:こんなに参加者が来てくれると思っていませんでした。ツナ缶も3月のプレイベントで実施した時はそれほど購入者がいなかったので、今回も同じかなと思っていたら皆さんに買っていただけて驚きました。
ーー私も帰ってから食べるのが楽しみです!おすすめの食べ方はありますか?
ーーこれまでもオンラインでお話を伺っていましたが、実際初日を迎えてみていかがでしたか?
伊豆川さん:現場の方まで巻き込みができていないのが心残りですが、開催が近づくにつれて、気づいたら工場内が片付いていたり、いつお客さんが来るの?とそわそわしている様子で、ファクハクを意識してくれているように感じました。実際に参加者の中には、繋がりのある企業の方もいて工場内を周っている時に「こんなにきれいにしているんだ!」と言葉をいただけました。次回は現場の社員も巻き込みたいです。
ーーファクハクに向けて今回トライしたことはありますか?
伊豆川さん:実行委員会側として参画される企業に伺う機会も何回かあって、3月の時点では手持ち資料も無く口頭での説明だけだった企業が、何回か行くと気づいたら進化していました。「やばい、自社も変えていかないと!」と思い、口頭で行っていた説明をスライドに変更しました。スライドは開催の直前まで修正していました。
ーー実行委員会側として大変だったところはありますか?
伊豆川さん:オープンファクトリーの言葉自体も認知度が低いのもあり、集客が大変でした。自社も先週までは半分くらいしか枠が埋まっていませんでした。このままではまずいと思って新聞に取り上げていただいたり、SNSを動かしてお客さんに伝わる工夫をしました。土曜日はお子さんからも予約が入っています。あと大変だったことだと…準備期間はあっという間で記憶がほとんどありません(笑)。
ーー当初伊豆川さんお一人でツアーをされると思っていましたが、他の企業のスタッフさんがいらっしゃって驚きました。質問にも的確に回答が返ってきたので、てっきり社員さんなのかと思うほどでした!
伊豆川さん:そうなんです。当初は工場見学ツアーも一人で全てしようとしていてツアーも1回につき5名にしていました。3人に当日もご協力いただけて枠を増やしたんです。
ーー今回ファクハクをしてみて、新しい企業のつながりはできましたか?
伊豆川さん:できました。前から知っていたけど今まで繋がりがなかった企業とか、存在は知らなかったけど実は間接的につながっていた企業があったことに気づきました。今回のつながりでお客様になってくださる企業もありました。
ーー今後の展望はありますか?
伊豆川さん:良い会社は沢山あるはずなのに、地方で埋もれてしまっていたり、日が当たらない会社が多くあります。今回大きな会社も巻き込んでみんなで一つになったことで、小さな会社でも知ってもらえるきっかけができました。今後も多くの企業を巻き込んで一つになりながら静岡の企業を発信していきたいです。
ーー今回ファクハクに参加された方や読者の方々へメッセージをお願いします。
伊豆川さん:飼料を通じて、農業や畜産業の方々が苦労しながら作られた商品が食卓に並んでいることを知って欲しいです。安価だから購入するだけでなく、誰がどのように作っているのか、食べることへの意識を変えるきっかけになれば嬉しいです。
最後に写真を撮影させていただきました。初回を終えて満面の笑顔。実はカメラの後ろで若手スタッフ3人が「伊豆川さんかわいい〜!」、「笑顔笑顔!」と言っています。3人からの掛け声もあり口角がばっちりあがりました。
ーー写真ばっちりでした!みなさんとはもう仲間って感じですね。
伊豆川さん:もう仲間同然です!
ーー伊豆川さん、スタッフの皆さんありがとうございました。
早速マグ活始動
伊豆川飼料の取材が終わり、私たちも早速マグ活をしました。
こちらは清水駅から徒歩5分にある宮本商店の「生本まぐろたっぷり丼」まぐろが口の中でとろけました。醤油を少しつけて白飯と一緒に食べると、まぐろの甘みが白飯まで染み渡って口の中が幸せでした。雨の日限定サービスで出てきたマグロカツも絶品でした。
後半の記事では、衰退した清水瓦に新しい価値を生み出している長澤瓦商店株式会社の見学の様子や、実行委員会の方へのインタビューをお届けします。(ものづくり新聞 P)