変化に溶け込み、長く寄り添うジュエリーを夫婦で制作。four seven nine 倉田ユウ子さん吉田高介さん
2023年07月05日 公開
静かな雨が降っていた2023年4月中旬。たまたま立ち寄った中目黒の古着屋さん「H(アッシュ)」で開催されていたジュエリーブランドのPOP UP。個性的でとてもかわいいアクセサリーに目を奪われていると、デザイナーのお二人が声をかけてくださいました。
お二人が一つ一つ手作業で生み出す純銀、純金のジュエリーは、ちょっと変わったデザイン。ですが、大ぶりのものや、チャレンジしたことのない雰囲気のアイテムでも、付けてみると不思議と肌馴染みが良い。初めて出会ったのに、ずっと前からつけていたような感覚に驚きました。
何よりも印象的だったのは、その場で作り手であるお二人から直接お話を聞くことができ、使う人に合わせたサイズの調整や刻印、さらにお手入れグッズの使用方法など、長く使うためのポイントを詳しく教えていただけるところです。
一緒に行った友人とそれぞれ心惹かれたアイテムをゲットし、降っていた雨を吹き飛ばすくらい心が弾む忘れられない思い出になりました。
それからおよそ1ヶ月。あらためて、ものづくり新聞特派員としてお二人に取材させて頂けることになり、都内のアトリエに伺いました。今回お話を伺ったのは、ご夫婦でジュエリーブランドfour seven nine (フォーセブンナイン)を運営されている吉田高介 (よしだたかすけ)さんと倉田ユウ子 (くらたゆうこ) さんです。
four seven nineは、 純銀SV999と純金K24という2つの素材のみを使用したシンプルなデザインが特徴のジュエリーブランドです。
SV999とは銀含有率99.9%(999‰)以上の純銀と呼ばれるシルバー製品。銀の純度が最も高いため、他の金属に比べて肌に優しく、「アレルギーが起きにくい」と言われている。
一般的にシルバー製のジュエリーはSV925を使用しているものが多く、鋳型を使った鋳造で生産されているケースが大半です。
SV925とは(一般的なシルバージュエリーの素材)スターリングシルバーとも呼ばれる、銀含有率92.5% (925‰)以上のシルバー製品。残りの7.5%には合金として銅が使用されることが一般的で、これが金属アレルギーの一因となってしまうことが多い。
しかし、four seven nineは純度の高いSV999とK24を使い、ひとつひとつ手作りで制作されています。
SV925に合金が入っているのは独特の光沢や色味に加え、強度を増すためでもあるのですが、four seven nineのジュエリーのほとんどは手作業で素材を叩き込んで作られているため、やわらかい純銀にジュエリーとして十分な強度が生まれます。また、熱伝導性が高い銀の性質が生かされ、体温に馴染みやすい特徴を持っています。
どうして純銀、純金にこだわって全て手作業でジュエリーを制作されているのか?ジェンダーレス、タイムレス、ボーダレスなデザインにはどういった意図があるのか?詳しいお話を伺ってきました。
吉田高介 さん東京都新宿区生まれ。株式会社アザーコンプレックス代表取締役。Wearable art designer(ウェアラブルアートデザイナー)。four seven nineのジュエリー制作とデザインを担当。大学卒業後は専門学校に進学。グラフィックデザインを学びながら彫金教室にも通い、「装う彫刻」の制作に挑戦。最近は洋服のプチリメイクとDIYにハマっている。
倉田ユウ子 さん兵庫県神戸市生まれ。株式会社アザーコンプレックス代表取締役。four seven nineのデザインと広報を担当。吉田さんと同じ専門学校へ進学後、デザイン会社や不動産会社を経て29歳のときにグラフィックデザイナーとして独立。広告やパッケージなどのデザイン、企画、制作を行う。趣味はカリグラフィーで和文字を描くこと、園芸、食、美容、健康、音楽鑑賞やDJなど好奇心旺盛。
吉田高介さん
ーー吉田さんは幼少期にどんなことをして遊んでいましたか?
時計やラジオの分解をしたり、プラモデル作りをしたりしてよく遊んでいました。
家族旅行にあまり行きたくなかったとき、「プラモデル買ってあげるよ?」の一言で旅行についていく子供でした。
ーー大学卒業後に進学した専門学校ではどんなことを学ばれていたのですか?
グラフィックデザイン専攻で、ポスター、プロダクトデザイン、パッケージデザインなどを学びました。それに加え、「装う彫刻」を作りたいと思い、彫金教室にも通っていました。
装う彫刻をつくりたい
ーー専門学校卒業後はどんなお仕事をされていたのですか?
始めはブックカバーデザイナーという、本をデザインする仕事をしていました。書籍や雑誌のデザインと並行して金属彫刻を作りたいと思ったのが彫金教室に通っていた理由の一つです。
ーーどのようなきっかけでジュエリー制作をされることになったのですか?
最初は金属彫刻を作りたいと思い、彫金教室に通いました。教室でほとんどの方がジュエリーを作っていたことから、ジュエリーは身につける事の出来る小さな彫刻だと気づき、そこから抽象的なジュエリー制作にはまっていきました。
個展、グループ展を毎年のように開催し、オーダーでマリッジリングやエンゲージリングも作っていました。ある時、「飼っている犬の指輪を作って欲しい」と言われ、それまで抽象的なデザインが多かったのですが、試行錯誤して作ったらとても喜んでもらえました。
そのリングの出来を見た妻にジュエリーブランドを立ち上げようよ!と言われ、2005年にSEVENLYSEVENというfour seven nineの前身である姉妹ブランドをはじめました。
はじめは存在感のある個性的なデザインが多かった
ーー制作過程において、four seven nineとSEVENLYSEVENにはどのような違いがあるのですか?
SEVENLYSEVENはSV925を使用していたので、制作途中で発生してしまう表面の酸化銅を磨く必要がありました。four seven nineは純銀を磨く必要がほとんどなく、温めて銀の太さや形を変えるところからスタートできるという点では、制作時のストレスが少ないです。
ーーSEVENLYSEVENの始まりから13年後、four seven nineが生まれたのはどのようなきっかけがあるのですか?
伊勢丹新宿店でSEVENLYSEVENのPOP UPを開催していた際に、伊勢丹の担当者の方に「もう少し若い世代向けの商品は作れないか?」と声を掛けられました。というのも、伊勢丹のその売場自体がSEVENLYSEVENがターゲットにしていた人たちより若い年齢層向けだったのです。
それなら若い世代に向けた新たなブランドを作りたいという話をしたところ、「まずは20種類試作を見せて欲しい」と言われ、すぐに制作に取りかかりました。素材は自分達が欲しかった、純銀でできたジュエリー。その試作品を担当者の方に高く評価していただき、ピュアな素材にこだわったブランドとしてfour seven nineが生まれました。
アトリエで活躍する道具たち
アトリエで制作時に活躍する道具をいくつか見せていただきました。そのうちの2つをご紹介します。一つ目は、線引盤と呼ばれる、金属の太さを変えるときに使うものです。銀を温めて、大きい穴から小さい穴に順に通していくと、銀の太さを変えることができます。
二つ目は、金床です。熱を加えたあと形を変えやすくなった銀をこの金床の上で打ち込みます。金属を叩くとき、金床や金槌に傷があるとジュエリーに同じ模様がついてしまうので、定期的に表面を磨かないといけないんだそうです。
自分がつくったものを直接届け、喜んでもらえる幸せ
ーージュエリー制作のどんな部分にやりがいや幸せを感じますか?
手を動かして、何かを自分で生み出せることに大きな幸せを感じます。それだけではなく、POP UPに実際に足を運んでくださった方に自分が制作したジュエリーをお届けし、喜んでいただけることにも大きなやりがいを感じます。
倉田ユウ子さん
ーー倉田さんは幼少期にどんなことをするのが好きでしたか?
字を書いたり、絵を描いたりするのが好きでした。3歳の頃から書道を習っていたこともあり、とにかく紙とペンさえあれば黙々と何かを書いている子供でした。
ーー学生時代はどのようなことに興味がありましたか?
色々なことに興味があったのですが、現代アートに興味があった頃は画廊でアルバイトをしていました。デザインの仕事をして、いつか自分のデザインしたものを販売したいという気持ちはずっとありました。
コンプレックスを克服するために異業種も経験
ーー専門学校卒業後はどのようなお仕事をされたのですか?
初めにカタログデザインの会社で働きました。元々は漠然と商品のデザインをしたかったのですが、カタログは買うのを決めた人しか見ないので、実はそういったことを考える必要はありませんでした。仕事をしていくうちに、自分が本当にやりたかったことは何だろうと考えるようになり、徐々に自分の中でやりたいことがクリアになっていきました。
ーーその後もデザインのお仕事を続けられたのですか?
そのあと、実は不動産会社でも働いていました。できない自分を克服したくて、数字で実績が見えやすい業界で働いてみたいと思っていました。働いてみて、女性が働きやすい業界だということにも気づき、学びの多い経験になりました。
杉並区イチ寝てない女と呼ばれた20代
ーー不動産会社に勤められていた頃はどんな1日を送っていたのですか?
昼間に不動産会社で働いて、夜20時ごろから深夜までデザインの仕事をしていました。3,4時間寝て、また不動産会社に行くという生活を4年ほど続けていましたね。友人から「杉並区イチ寝てない女」と言われたこともありました。
29歳で、グラフィックデザイナーとして独立
その後29歳の時に(株)アザーコンプレックスにグラフィックデザイン部門を設立し、グラフィックデザイナーとして独立した倉田さん。オフィスの一角にSEVENLYSEVENの展示場所を設けたり、伊勢丹新宿店などでPOP UPを開催し、ジュエリーデザイナーとしても活躍します。
「体の一部」となるジュエリーをつくりたい
ーー最近のPOP UPではどのようなお客様がいらっしゃいますか?
自分用に購入したあと、大切な方へのプレゼント用に選んでくださったりするお客様もいらっしゃいます。その後プレゼントされた方と一緒にPOP UPに足を運んでくださって、お揃いで新しいジュエリーを購入されるといったこともありました。
ーーfour seven nineのジュエリーをどんなふうに楽しんでもらいたいですか?
着け心地の良さも意識してデザインしているので、お風呂に入るときや寝るときにもつけていることを忘れてしまうような、でもふとしたときに目に入って気持ちが安らぐような存在でありたいと考えています。着け心地の良さからジュエリーが体の一部になるような感覚で、ご自身の一番そばにいる相棒として楽しんでもらいたいです。
混ざらない”純銀/純金”を選ぶことで生まれる芯の強さ
コストも時間も節約でき、大量生産が容易なSV925の鋳造ではなく、SV999を使用し、手間のかかる手作業の打ち込みで一つ一つジュエリーを制作されるのはなぜなのか?それは、混ざり気のないピュアな素材を使うことでブレない、揺るぎない芯の強さを表現したいからだそうです。
その結果、four seven nineには、打ち込むことで生まれた物理的な強さだけではなく、身につける人に寄り添い、そっと背中を押してくれるような目に見えない強さもあるのだと思います。
そういった背景から、four seven nineのジュエリーを長年愛用している方たちからは芯の強さや唯一無二の個性を感じます。four seven nineには、大切な人へのプレゼントとしても、自分へのご褒美としてもぴったりな特別感のあるジュエリーが揃っています。
単純なものは “古くならない”
four seven nineの前身であり、姉妹ブランドのSEVENLYSEVENではディテールにこだわったデザインのジュエリーが多かった一方で、four seven nineは流行に左右されないシンプルさが際立ちます。
洋服や靴には「メンズ」「レディース」というカテゴリーがあるものがほとんどですが、four seven nineは男女によってデザインが異なるということがありません。華奢なデザインを男性が身につけていても良いし、大ぶりなかっこいいデザインを女性が好んだって良い。だから、four seven nineのジュエリーのサイズ展開はとても幅広く、初めて自分の指に合うサイズで気に入ったデザインに出会えた女性の方もいるそうです。
単純なものは、古くならない。だからシーンや時代やジェンダーの垣根を越えて、長く寄り添い、愛されるジュエリーとなれるはず。といった想いがその洗練されたデザインに込められています。
大切な人と一緒に経年変化を楽しみながら長く使うために
長く同じものを身につけていると、汚れてしまったり、壊れてしまうこともあります。four seven nineでは、年に一度ジュエリーのメンテナンスを無料でお願いするキャンペーンを実施しているそうです。
今後はみんなで集まって一緒にメンテナンスをするといったことや、パートナーとジュエリーをシェアするというライフスタイルを提案していくこと、純銀の魅力を伝える書籍の出版など、やってみたいことはお二人の中でたくさんあるのだとか。
ものづくり新聞では引き続き勢いのあるお二人の活動に注目すると共に、お二人のご活躍を心から応援しています。
four seven nine
2023年7月と8月に開催されるPOP UPで「ものづくり新聞を見てきました」と言ってくださった方にfour seven nineのロゴの刺繍入りポーチをプレゼントいたします。POP UPが開催されるのは神奈川県横浜市のJIKE STUDIO(7月6日〜7月23日)と伊勢丹新宿店(7月26日〜8月8日)。POP UPの詳細はこちら。
あとがき
取材させていただいたアトリエは雑誌の世界かと思うほどおしゃれで、木のぬくもりを感じるとても落ち着く空間でした。取材後にSEVENLYSEVENのリングをいくつか試着させていただきました。four seven nineとはまた表情が異なり、煌びやかなアイテムばかりでとてもワクワクしました。
four seven nineのリングは、一つのデザインにつき777個のみ制作されるという限定品。私が以前購入したリングにも288/777という刻印がされており、さらに愛着が湧きました。これからも、日常に楽しみや充実感をくれるような丁寧なものづくりに注目していきたいと思います。
( ものづくり新聞特派員 佐藤日向子 )
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