町工場向けIoTを提案する ITグループ 田原健次さん(枚岡合金工具特集Vol.3)
編集部は大阪市生野区にある冷感鍛造金型製造・枚岡合金工具を取材しました。枚岡合金工具は徹底した3S(整理、整頓、清掃)活動のほか、IT化にも積極的に取り組んでおられます。そのきっかけは製造グループ渡邊成雄さんの働きかけがありました。
枚岡合金工具特集のVol.1、Vol.2の記事で、そこまでの詳しい内容をご覧いただけます。
今回は、町工場向けIoTソリューションを社内および社外に提供するITグループの田原健次(たはらけんじ)さんにお話をお伺いしました。
未経験からのIT担当
ーー田原さんの役割を教えてください。
枚岡合金工具が外部向けに販売している文書管理・図面管理システム『デジタルドルフィンズ』のユーザサポートを担当しています。また、工場視える化IoTシステム『現場の妖精』、自社のウェブサイトの開発も担当しています。
ーー入社の経緯を教えてください。
実はもともとニートで家にひきこもっていたのですが、親にそろそろ働いた方がいいと言われて、親の知り合い経由で紹介されたのが枚岡合金工具でした。当初は仕方なく入社した感じでした。
ーーそれまではITについて勉強やご経験はあったのでしょうか?
ありませんでした。入社してからやりながら覚えていきました。
ーーどうやってお仕事を覚えていったのでしょうか?
『デジタルドルフィンズ』のユーザサポートから始めたのですが、お客さま自身も初心者の方が多かったため、私もお客さまと一緒に習熟しながら対応していました。その対応をさせていただくにつれて私も覚えていきました。
入社してからのチャレンジ
ーー枚岡合金工具さんに入社されていかがでしたか?
3S(整理、整頓、清掃)が徹底していて、しっかりしている会社だなと思いました。なので固い会社なのかなと思っていたのですが、実は自主性が高く、仕事の自由度が高い会社でした。社会やお客さまのためになるのであれば取り組んでも良い、チャレンジしても良い、という社風でしたので、非常にやりがいがありました。
ーー田原さんがチャレンジされたことはありましたか?
自社ホームページの開発は自分で手を上げました。その後は私に任せていただけるようになり、どんどん新しい技術を学んでいきました。学んだ技術を使ってまた開発を行い、どんどんできることが増えて行きました。やっているうちに楽しくなり、今はホームページのリニューアルのタイミングで完全に自分で構築して作るようになりました。
新しいことができるようになる、その瞬間が楽しい
ーーどういう瞬間が楽しい瞬間ですか?
自分が身につけたことが誰かの役に立つ、その瞬間が楽しいですね。新しいことができるようになる瞬間も楽しいです。その環境が今この会社にあり、会社の社風に合っているということは良かったと思います。
ーーそのように新しい技術を学びながら、今はIoTソリューションを担当されているんですよね?
2年前まではあまり取り組んでいないテーマでしたが、製造チームの渡邊さんと「3Sサミット」(3S推進協会主催)に参加しIoTの講義を受けました。そこから実際にやってみようということになりました。この講義は土曜日だったのですが、次の日の日曜日には大阪の日本橋(にっぽんばし)に行き、センサーやマイコンを買ってきました。日本橋は電気街がある街です。電気部品などは何でも入手できる場所です。最初は子供のように喜んでやってました。
(編集部注:枚岡合金工具の最寄駅北巽駅から日本橋駅までは大阪メトロ千日前線で一本です)
ーー実際に何を作ってみたのですか?
マイコンに明るさセンサーをつけて、それをパソコンにつないでみたんです。明るさセンサーに光を近づけたりするとパソコン上で数値がパッと変わるんです。外の世界の物理的な変化をこういうふうに数値にできるんや!ってわかったんです。
ーーこれは社長や上の方からやって欲しいと言われていたわけではなかったんでしょうか?
特に上の人から言われたということではなく、私と渡邊さんたちで多分こういうものは必要だろうということでやってみたものです。
ーーそして取り組まれたのが機械の稼働確認ができるIoTソリューションですね。
はい、そうです。
自社で培ったIoT技術を社外にも提供
ーーそして今は社内で活用したIoTソリューションを社外にご提供されているのですよね?
はい、いま私が注力しているのがIoTソリューションのご提案です。まだ販売開始したばかりですが、4社にご利用いただいています(2022年1月現在)。お客さまからは大変助かったというお声をいただいています。
ーーこのIoTソリューションはどういうものなのでしょうか?
何かパッケージ製品があるわけではなく、ご要望に基づいてそれに応じてご提案するスタイルです。IoTのシステムは一般的にパッケージされたものが多く、そのパッケージにないものはできないと断られることが多いそうです。私たちはできるだけ実現できるようにご予算や規模に合わせてご提案しています。
ーー中小の製造業のみなさんはご予算が厳しいことが多そうな気がします。
はい、見える化という取り組みに対して使うお金は大きくないと思います。製造業って機械には結構投資するのですが、見える化自体は品物を生み出してくれるわけではありませんので、あんまり予算が出せないっていうことはどうしてもあります。しかし、少ない予算でもできることはあります。私たちは町工場の目線からご提案しています。
ーー今後はどのように展開される予定でしょうか?
文書管理の「デジタルドルフィンズ」はすでに200社以上のお客さまにお使いいただいています。このお客さまにIoTソリューションをご提案していきます。ただ、個別にご提案するスタイルですので、当初は一緒に考えながらやっていただけるお客さまが多くなるかもしれません。
会社のみんながパソコンや数字に強くなってほしい
ーー田原さんが今後取り組みたいテーマはありますか?
会社全体の課題として、みんながパソコンに強くなって、数字に強くなるというのが課題かなと考えています。現状、パソコンのスキルは人によってバラツキがあると感じています。
ーー今パソコンや数字に弱いというのは、たとえばどんなところでお感じになりますか?
毎月みんなで集まって全体会議をしているのですが、目標に対して結果がこうで、次こういうことに取り組みますという発表を1人ずつおこなっています。しかし、その発表を数値をベースにして発表している人は限られています。
ーーなるほど、そういう数値をまとめるためにもパソコンを活用してほしいということですね。
そうですね。そして、製造の方々もITやパソコンのことをわかってもらうことで、ITを活用すると製造現場がこういうふうによくなるよということもわかっていただきたいというのもあります。
技術の掛け算が大切
ーー製造の方々がITを理解いただくことで、現場のIoTがもっと進む、ということですね。
はい。実は、見える化の技術といっても、1個1個の技術はそんなに高度なことをやっているわけではないんです。電子工作といっても今や小学生でもできるような技術です。もしかすると私たちは小学生に負けるかもしれません。しかし、それらを組み合わせて、技術の掛け算というのでしょうか、それをつなげてウェブで見える化することで、すごく役に立つ仕組みになるんです。それらをワンストップで実現できればすごいスピード感に繋がると思います。
ーー田原さんたちがこれまで興味を持って取り組んできたことが繋がり実現できたことですね。
そうなんです。ホームページを担当していたからウェブの開発もできるようになりました。センサーやマイコンを買ってきてセンサーの情報も見えるようになりました。今までやってきたことが全部活きている感じがします。それがすごく楽しいんです。
枚岡合金工具株式会社
編集後記
新しいことを学び、それを具現化して、誰かの役に立つ、というシンプルなモチベーションを持ち、新しいチャレンジを続ける田原さん。
私が印象的だったのは、「技術の掛け算」という言葉。一つ一つの技術は簡単であってもそれらを組み合わせて使うことで役に立つに仕組みになる、というお話でした。
IoTの取り組みも、自社でできる範囲で小さくやってみる、わかる技術を組み合わせてみる、ということでできることもたくさんあるのだということを感じた取材でした。