パートから現場リーダーへ!2人のキーマンに聞く町工場効率化の秘訣

荷物の運搬や、物を保管するために使う"ダンボール箱"。 私たちの暮らしにおいて、とても身近なアイテムですよね。そんなダンボール箱、年間使用量を1人あたりに換算すると、一体どのくらいになると思いますか?
…正解は、 なんと150箱!(参考:レンゴー株式会社
想像よりずっと多く感じた方もいるのではないでしょうか? 普段なかなか気付かないところで、我々はダンボールのお世話になっているのかもしれませんね。
ということで今回は、そんなダンボール箱や、紙製販促ディスプレイの製造を手掛け、東京都墨田区の五十嵐製箱株式会社を訪れました。この記事のトップ画像にいるうさぎちゃんも、五十嵐製箱方々が作ったものなんです。

木箱より強い紙箱として注目された

はじめに、簡単に“日本のダンボール史”を振り返ってみましょう。
日本でダンボール箱の需要が高まったのは、1900年代のことでした。産業の活発化や関東大震災の復興に際して、強度が強いダンボールが使われました。それまで輸送用の箱として使っていた木箱や、釘などの鉄が不足したこともあり、ますますダンボールが広まっていきました。
 
しかし、第二次世界大戦の被害を受け、国内のダンボール生産工場は火災でほぼ全滅し、一度終焉を迎えます。
 

あらゆる分野でダンボールが使われるように

その後、復興に伴いダンボール箱生産は再出発し、急速に発展していきました。その背景には、政府が森林資源の保護に乗り出し、「木箱からダンボールへ切り替えましょう」と呼びかけたことも大きいと言われています。
 
1955〜1960年には、酒、醤油、野菜など食品の分野で、木箱からダンボール箱への移行が進みました。当時は、箱に商品名を印刷することで、輸送中でもアピールできる、梱包が簡単、重さが木箱の3分の1程度であることなどの点から、重宝されていたようです。
 

需要を先読み!木箱製造からダンボール製造に転身

元々は輸送用の木箱を製造していた五十嵐製箱。1953年、世の中の需要に対応するため、いち早くダンボール箱の製造を始めます。日本国内でダンボール箱を使った輸送が本格化する、少し前のことです。輸送効率が格段に上がったダンボール箱の登場は、日本の流通業界にとって革命でした。
 

スーパーでよく見かける、アレ・・・

五十嵐製箱はこんなものも作っています。
スーパーや薬局などで、このような商品棚を見たことがありませんか?本体には商品名やキャッチコピーがカラフルに印刷されており、インパクトたっぷりなフロアディスプレイです。しかし、かつては「重い。組み立てが難しい。」と店舗側に敬遠されてしまい、なかなか使ってもらえませんでした。
 
そこで五十嵐製箱は、ワンタッチで開き、一瞬で組み立てることのできるディスプレイを開発しました。ダンボール製と侮るなかれ。ダンボールの断面を見せないことで、まさかダンボールで作られているとは思えないような高級感を演出することができ、高価格帯のお酒のディスプレイにも使われているのです。
 
更に、「リボード」と呼ばれるスウェーデンで誕生した頑丈で軽い素材を使い、商品を並べるディスプレイの製造も行っています。
リボード製の椅子
リボード製の椅子
よく見ると断面はダンボールのよう
よく見ると断面はダンボールのよう
 
リボードも紙製ですが、一般的なダンボールとは異なり、木で作られているかのように頑丈です。運ぶためのダンボール箱だけではなく、木工品のような造作物もれるのが、今の五十嵐製箱です。
 

箱詰めもする製箱会社

梱包部門の様子 スピード感のある作業で、現場には緊張感がありました。
梱包部門の様子 スピード感のある作業で、現場には緊張感がありました。
また、五十嵐製箱は、梱包部門も構えています。梱包部門の仕事は、いくつかの商品を詰め合わせたギフトセット製作、密封や汚れ防止のためのシュリンク加工などです。箱社名や商品名などのオリジナルラベルを貼りたいという要望にも応えることができます。
全員が状況を把握するため、自分の作業や必要なことは、声に出して伝えているそうです。
全員が状況を把握するため、自分の作業や必要なことは、声に出して伝えているそうです。
梱包部門の仕事では、多くのスタッフの方々が働いておられます。作業が細分化され、流れるベルトコンベアを囲むようにして仕事をされていました。梱包部門の仕事はスピードが命。リズムを崩さずに、丁寧且つ迅速な仕事が求められます。
 
今回は、五十嵐製箱の梱包部門で働く、お二人にインタビューしました。お二人とも、パートで入社し、現在では正社員として活躍されています。

■八代智美さん

 
ーー製造統括責任者としての仕事は、どのようなことをされていますか?
 
生産管理課が立てた生産計画を予定通りに実行することの管理と、派遣社員やパートタイマーの方の業務管理をしています。予定通りに製品を作ることだけではなく、品質を保つために作業を確認し、教育することも私の仕事です。
 
ーー具体的にはどんなことを確認、教育されていますか?
 
ちゃんと手順通りに作っているかどうかを確認します。ミスはできるだけ作っている段階で防ぎたいので、よく確認するようにしています。
 
ーー完成してから最終確認してミスが発覚した場合、手直しが大変になると思います。逐一作業を確認されるのがいいような気がしますが、実際はどうですか?
 
現場を歩き回りながら、手順を確認することはよくしています。それだけで全てが防げるわけではないですが、目視で見て回って、その場で教えるのが一番早いと思いますね。
ーー派遣の方やパートさんの管理というのは、どのようなことをしていますか?
 
まずは、その日にやるべき仕事や、進捗状況に合わせて、どのポジションにどのくらい人数を配置するかを考えて決めます。その計画通りに進められれば良いですが、遅れが発生したり、早退する人がいたりすることもあるので、なかなかそうはいきません。「ここの仕事が遅れているから、別のところから何人か入ってもらう」という判断は、逐一状況を見ながら行っています。
 
ーーどの場所からヘルプに来てもらうか、何人の増員が必要なのかは、状況によって判断が変わってくるのではないかと思います。
 
そうですね。生産計画に対して、人が足りないということがあらかじめかっている場合、前もって人員の配置を考えたり、派遣社員を募集したりできますが、当日の進捗状況に合わせた調整は、やはり逐一対応するしかないですね。人員の管理が一番難しくて大変だなと思います。
 

現場の声を後回しにしない!

ーー入社した当初は、将来的に正社員になることを目標としていましたか?
 
そういった気持ちはなかったですね。最初は、どんな仕事なのかなと、不安を持ちながら入社しました。慣れてくると、梱包の仕事って結構楽しいなと感じるようになりましたが、いつか正社員になりたいとは特に思っていませんでした。
 
ーー具体的にどういったところが楽しいと感じましたか?
 
次から次へと流れてくる商品を、梱包していく仕事なのですが、自分のやり方次第でいくらでも早く、綺麗に梱包することができます。ほとんどの人がスピードについていけない中、自分で工夫して、素早く作業できるようになると、すごく楽しいなと感じました。
 
ーー現在は、その梱包部門を束ねる製造統括責任者をされていますが、心掛けていることはありますか?
 
現場で働く方の声を聞き、すぐに対応することです。例えば、この箱の素材がツルツルしていて商品を入れにくいと言われたら、ツルツルした箱でも入れやすいように、入れ方を変えたり、治具を作ったりして対応します。生産性の低下や怪我にも繋がるので、後回しにせず解決したいと思っています。
ーー少しでも時間のロスが発生すると、積もり積もって大きな遅れに繋がってしまうのではないかと思います。
 
そうですね。やはり人が行う作業ですので、やり辛い作業だと遅れが発生して、全体計画にも影響します。更に、同じ人が大変な作業ばかりを担当していたら不満も出ます。色々な作業を経験してもらうためにも、人員の配置はローテーションさせています。
 
ーー急な休みや、早退などはどのように対応していますか?
 
梱包部門に関しては、“そういう時はお互い様”という雰囲気があり、フォローし合っています。私も子供が生まれたばかりの頃は、それが本当に働きやすいと感じました。
ーー今後の目標を教えてください。
 
“人”に左右されないような仕事ができたら良いなと思っています。人が手作業でする仕事である以上、どうしても作業する人それぞれのスピードに左右されてしまうものです。そんな中でも、できる限り誰でも安定して仕事ができるようにしていきたいです。
 
ーーやはり、手作業での作業が一番効率が良いのでしょうか?
 
作業効率や生産性向上について検討する度に、梱包機械導入の話が出てくるのですが、次から次へと梱包する商品が変わっていくので、そこにすばやく対応するには、やっぱり人の手作業が早いんですよね。効率化を求めつつも、誰でも同じ品質で仕事ができるようにフォローしていきたいです。
 
 

■大久保 未佳さん

ーー生産管理課で、どのようなお仕事をされていますか?
 
案件を受注後、いつどこの工場で生産するかを決めます。弊社は6社の協力工場さんと提携しているので、空き状況などを見ながら検討しています。工場が決定したら、材料の手配をし、納品までの生産管理をしています。材料はお客様から支給いただくケースもありますし、箱の製作から請け負うケースもあります。
 
ーー受注した仕事の生産管理を全てやっておられるのですか?
 
基本的に、計画を立てるのは私の仕事です。一緒に生産管理しているパートさんがいて、その方が計画に基づいた細部の仕事を担当してくれています。
 
ーーということは、五十嵐製箱で作っている製品は、まず大久保さんに聞けばわかるんですね!
 
何でもわかるというわけではありませんが、大体のことはわかると思います(笑)
 
ーースーパーなどに行った時、ついディスプレイに注目することはありますか?
 
「うちで作ったやつだ!」と思う瞬間はありますね。都内は店舗が狭い分あまり置いていなくて、地方の方があると聞きます。でも最近は、お客様が触ってボロボロになっていたり、違う商品が陳列されていたりして気になっちゃうのであまりないようにしています。代わりに、他社のディスプレイは勉強になるので見ることが多いですね。
 

子供の手が離れ、正社員に挑戦

ーー正社員に挑戦してみようと思った背景を教えてください。
 
八代さんがパートから正社員になった1人目なんです。ちょうど同じ時期に私も登用のお話をいただいたのですが、正社員はパートよりも30分出勤が早く、子供たちよりも早く家を出る必要がありました。それがネックでお断りしていたのですが、子供の成長に伴って、そろそろ大丈夫かなと思ったので、挑戦しました。
 
ーー出勤時間はネックに感じつつも、やってみたいというお気持ちは以前からあったのですか?
 
そうですね。パートで入社して割とすぐに現場の責任者になり、その頃からやるべき仕事が結構多くて、社員と同じような気持ちで仕事をしていたので、抵抗感はありませんでした。でも、正社員になってから生産管理課に配属となり、その頃から色々な種類の仕事やお客様が増えてきて、最初のイメージよりはハードな仕事だなと感じています。
 
ーー生産管理の仕事をする上で、大事だと感じていることはありますか?
 
情報が命だと常々感じています。社内外含めてできるだけたくさんコンタクトを取り、話しやすい雰囲気を作っておくことで、仕事がスムーズに進みます。もちろん、生産管理という立場上、情報が集まってきますが、いつでも話しやすい空気を作っておくことで、より仕事が進めやすくなると感じます。
 
ーーそれは、仕事をしていく中で大久保さんが体感されたことなのでしょうか?
 
はい。以前はどちらかというと“監督”っぽい感じで、結構怖がられるタイプでした。でも、それだと情報が入ってこなくなっちゃうんですよね。仕事とはいえ、人間同士なので、話しやすい雰囲気の方がいいなと思いました。
 
ーーそう思うようになったきっかけとなる出来事などはありましたか?
 
元々、意図的に厳しくしていたところはあったんです。あまり近すぎると、言わなきゃいけない注意などが言いづらくなっちゃうなと思って、あえて距離を保っていました。でも、やっていく中で、どこから情報が入ってくるかわからないし、今するべき振る舞いはそうじゃないと徐々に気が付きました。時には仕事以外の話をしたり、部署問わずに話しかけたりして、色々な人とコミュニケーションを取るよう心がけています。
 

急な休みも、お互いがフォローしているから成り立っている

 
ーー大久保さんから見て、五十嵐製箱はどんな会社だと感じますか?
 
例えば、「効率を考えると、この仕事はこっちに回した方がいい。」と感じている仕事があったとして、それをちゃんと説明すれば、こちらが考えるようにさせてもらえる会社だと感じています。状況にもよりますが、こちらの気持ちを尊重してもらえる環境であると思います。
 
ーー働きやすさに関しては、どうお考えですか?
 
パート勤務の方の中には、小さいお子さんをお持ちの方もいて、急に休むこともありますが、お互いにフォローし合っていて働きやすいと思います。私もパート勤務時代は、子供を見るために急に休まなければいけない時がたまにありました。急に休んでも大丈夫というわけではありませんが、お互いにフォローし合えているので、成り立っていると思います。
 
ーー課題に感じていることはありますか?
 
会社全体の話ですが、特に若い世代のママさんたちが入ってきてくれたらいいなと思っています。私は採用の面接もやっているので、結構気になっていることなんです。以前はフルタイムの募集がメインでしたが、今は週1日、1日5時間の募集も行っています。フォローし合える環境もありますし、今後のためにも若い方々が関心を持ってくれたら嬉しいです。
 
ーーどんな方が向いていると思われますか?
 
細かい作業が好きな方や、手先が器用な方はきっと楽しいと思います。軽作業とはいえ、結構運動量が多いので、身体を動かすことが好きな人も向いているのではないでしょうか。
 
ーー今後の目標を教えてください。
 
稼げる会社にならないと、生き残ることはできないと思っています。かといって、効率を追求して、詰まった計画を立てても、必ずしも良い方向にいくとは限りません。その中で、できるだけ低コスト、でも品質は落とさずにコツコツ仕事をしていきたいです。
 
五十嵐製箱株式会社
本社 東京都墨田区本所1丁目1番地2号
代表 五十嵐 義和
 
 

あとがき

工場見学の際に見つけたコレ。なんのための装置でしょうか。
 
正解は、乾燥による紙の割れを防ぐために、ミストを噴射している装置なんです。
紙を扱っているため、どうしても空気は乾燥してしまうそうです。温度管理を徹底する工場は多々ありますが、乾燥対策をこのような形で行っている様子を見たのは初めてで驚きました。(ものづくり新聞 中野涼奈)