“地元を語れる子供を育みたい” 高校生と挑む酒造り(山形県河北町)

2023年02月07日 公開
舞台は、山形県のほぼ中央に位置する山形県西村山郡河北町(かほくちょう)。この町で、地元の高校生が日本酒造りに挑戦しました。

校生が酒造り?未成年なのに?

 
と思った方、是非最後まで読んでいただきたいと思います。この取り組みは、子供たちにものづくりや、町の魅力を伝え、河北町を盛り上げようと奮闘する大人たちの物語でもあるのです。
 

酒造りプロジェクトメンバー

町内唯一の高校、山形県立谷地(やち)高等学校
河北町で日本酒製造を営む、和田酒造合資会社
河北町の産業活性化を行う、かほくらし社
この3者による酒造りは、2023年で2回目となります。 2022年に、初めて高校生が酒造りから瓶詰めまで携わった日本酒は、彼らによって「谷地の雫」と名付けられ、販売されました。限定販売された1000本が瞬く間に完売。再販を望む声も多かったといいます。
 
今年は「谷地の雫2023edition」として、新たに仕込みを行い、春先に販売される予定です。今回はその仕込み作業に密着しました。
 

水・米・麹 シンプルながら奥深い日本酒造り

日本酒は、米・麹・水を主原料とした清酒のことを指します。材料はシンプルですが、製造工程は実に時間と手間を必要としています。日本酒を「仕込む」と一言で言っても、麹の仕込みや醪(もろみ)の仕込みなど様々な工程があり、毎日の温度管理もとても重要です。
 
日本酒造りについて詳しく知りたい方は、こちらのサイトをご覧ください。日本酒の製造工程が分かりやすく紹介されています。(日本酒情報サイト『酒みづき』(清酒『沢の鶴』運営)
 
いくつもの工程、工夫がある中、特に興味深かったものを詳しくご紹介します。
 

いつも食べているご飯の米と、日本酒用の米の違い

食用米と酒米は、米の品種が異なります。
食用米に比べて、酒米はタンパク質が少なく、粘り気があまりありません。今回使用したのは「雪女神(ゆきめがみ)」という品種です。2015年に山形県農業総合研究センターが開発した純米大吟醸向けの酒米で、現在では山形県内の酒蔵のほとんどが雪女神を使って酒造りをしています。今回使用した雪女神は、高校生を一緒に酒の仕込みを行った、河北町立溝延(みぞのべ)小学校の6年生が地域の方と育てたものです。
 
種類だけではなく、【精米】の工程にも違いがあります。
精米とは、玄米を削り精白することです。今回使った雪女神は、玄米を48%精米したものです。一方、食用米は、玄米を10%程精米したものです。日本酒は、普段食べているご飯よりも、更に精米した米を使っているのです。そのため、写真のように丸い形をしています。
 
なぜ、食用米よりもたくさん精米するかというと、米の表面に近い部分はタンパク質や脂質などが含まれており、日本酒を作る際には、それが雑味として現れてしまいます。そのため、米を削って、米の芯の部分だけを使うのです。日本酒の世界では精米のことを「磨く」ともいいます。
今回は高校生の皆さんが、2日間にわたって以下の作業を行いました。
  • 米を洗う
  • 蒸した米を、醪(もろみ)造りのためのタンクに運ぶ
  • 醪を混ぜ合わせる
 

■洗米:米を洗い、水を含ませる      時間はきっかり20分!

精米した米の表面に付着している米糠(こめぬか)を落とすため、洗米をします。
洗米は食用米を炊く際にも行う作業ですが、日本酒造りでは、使用する米の種類や硬さに合わせて、厳密な時間管理の元、作業が行われます。今回は、「20秒間洗米したら、10秒間水から揚げる」を繰り返し、トータルで20分間、米に水を吸わせます。
洗米を繰り返すと、米が水を含んで重くなります。後半は水から揚げるのも一苦労でした。この作業は、酒米の種類や精米具合によって、機械洗いか、手洗いかが決まります。今回は雪女神という純米大吟醸向けの米を使っており、米が繊細で壊れやすいため手洗いで作業を行いました。

■蒸し:米を炊くのではなく、蒸す!

食用米は水を入れて炊きますが、日本酒造りでは水を切って蒸します。炊くのではなく“蒸す”理由は、水分と共に炊いてしまうと、日本酒の味に雑味が出てしまうためです。和釜(わがま)と呼ばれる釜でお湯を沸かし、その蒸気で米を蒸していきます。
かつては、和釜の下で燃料を燃やし、火を起こしてお湯を沸かしていたそうですが、現在はボイラーを使用しているそうです。そのため、この煙突は現在は使われていませんが、和田酒造のシンボルとして今も大切にされています。

■放冷:米を冷ますための機械がある!?

蒸した米は、水や麹と混ぜ合わせます。しかし、蒸した直後は米の温度が高いため、混ぜ合わせる前に冷ます必要があるのです。江戸時代から修繕を繰り返し、現役で使われているというはしごに昇り、スコップで米を樽に移します。
樽に目一杯米を入れると、重さは約20キロ。高校生の皆さんは、1人でも持てるよう樽の半分ほどの米を入れ、慎重に運んでいました。
運んだ米は、放冷するための専用の機械へと投入します。この機械で蒸した米を広げて、温度を下げます。

(もろみ)造りは3回に分けて行われる

醪とは、水、蒸した米、米麹、酒母(しゅぼ:発酵を促す酵母を培養したもの)を混ぜ合わせたもので、醪を発酵させて絞ったものが日本酒となります。混ぜ合わせるときは一度に行わず、3回に分けて混ぜ合わせます。今回は2、3回目の作業を行いました。
醪の仕込みでは、2回目の作業を「仲仕込み(なかしこみ)」、3回目を「留仕込み(とめしこみ)」といいます。蒸して冷ました米を、少しずつ醪のタンクに投入し、混ぜ合わせていきます。台から落ちないように気を付けながら、丁寧に作業を行いました。

1ヶ月間、温度管理しながら発酵させる

ここからは酒造りのプロ、和田酒造さんによる温度管理の元、醪を発酵させていきます。常に適温に保ちながら、醪を混ぜ合わせて発酵を促します。この醪を混ぜ合わせる作業は「カイ入れ」と呼ばれており、毎日行わなければならない重要な工程です。
発酵が進んできたら、醪の酸度などを測定し、アルコール成分が発生しているかをチェックします。目標としているアルコール量が確認できれば、醪の発酵は完了です。
和田酒造の近くにあり、和田さんの親戚が営むという酒屋で、酒粕が販売されていました
和田酒造の近くにあり、和田さんの親戚が営むという酒屋で、酒粕が販売されていました
発酵が完了したら、機械で圧搾して、酒粕と日本酒に分けます。スーパーなどで板状の酒粕が販売されているのは、圧搾時に酒粕が溜まる袋が四角で、板状に溜まるからです。
 
今回仕込んだ日本酒の完成は、約1ヶ月後だそうです。高校生たちが仕込んだ日本酒は、1ヶ月間、和田酒造の蔵人による発酵管理を行い、完成を目指します。その後、オリジナルのラベルを付けて、春先に販売されるとのことです。昨年はあっという間に売り切れたという「谷地の雫」。高校生の皆さんは、20歳になった時に、自分たちで仕込んだ日本酒を飲むことを楽しみにしていました。今年の完成が楽しみです。
 

河北町の子供たちの未来を想う、熱き大人たち

かほくらし社 菊地航平さん

酒の仕込みに密着した編集部が気付いたのは、子供たちの未来を想う熱い大人たちの存在です。はじめに、かほくらし社の菊地航平(きくち こうへい)さんにお話を伺いました。
 
ーー菊地さんは、宮城県のご出身だそうですが、どういった経緯で河北町を訪れたのですか?
 
大学が山形で、在学時は地域起こしや町づくりに関するサークルの代表をしていました。そこで、イベントを企画して、地域の人や学生みんなで地域を盛り上げることに夢中になった学生時代でした。
就職も地域を盛り上げることができる企業を目指していて、ある方から紹介されたのが『かほくらし社』です。当時はまだ会社設立の前でしたが、実際に河北町を訪れてみると、町に魅力を感じたんです。ご縁があり、地域おこし協力隊として河北町に移住し、かほくらし社の立ち上げから共に活動しています。
 
ーーかほくらし社とはどのような会社ですか?
 
河北町の地域商社として、河北町の地域産品の開発、販売促進や、情報発信、イベント企画などを行っています。私はラボ事業部という部署で、河北町のツアーを行うツーリズム事業や、今回のプロジェクトのような産学官連携の取り組みを担当しています。
 
また、河北町は「かほくイタリア野菜」として、イタリア野菜の生産に力を入れています。かほくらし社では、現在のイタリア野菜の“流行り”を察知して生産計画を立てたり、販路拡大のために販売支援をしたりというサポートもしています。
 
ーー山形でイタリア野菜ですか?産地として複数の農家さんが生産しているのは、珍しいのではないでしょうか。
 
そうですね。河北町のような形でイタリア野菜を生産しているケースは、日本ではほとんどないと思います。イタリア野菜って、育てるのが難しい品種も多いんです。
今、我々が推している「トレヴィーゾ・タルディーボ」というイタリア野菜は、育てた株を引き抜き、水耕栽培で再び育てる必要があります。更に、寒さに当たらないと綺麗な白にならず、緑っぽくなってしまいます。試行錯誤しながら、安定した栽培を目指しているところです。
 
〈かほくイタリア野菜研究所より引用 トレヴィーゾ・タルディーボ〉
〈かほくイタリア野菜研究所より引用 トレヴィーゾ・タルディーボ
ーー河北町に移住してみていかがですか?
 
優しい方々に囲まれて、美味しいものばかり食べていま(笑)イタリア野菜は、仕事でも関わっていますが、プライベートでもよく食べています。インターネットで調理法を検索すると、手に入らないような調味料が使われていることも多いのですが、一般的な野菜と同じようにフライパンで炒めるだけでも美味しいので、普段の自炊でもよく使っています。
 
ーー産業の面から見て、河北町はどんな町だと感じていますか?
 
河北町には、地域の人同士が繋がっていろんなことに取り組もうとするムードがあります。例えば、和田酒造さんの日本酒造りで発生した酒粕は、河北町の農家さんが肥料として活用していたり、畜産業を営む方と米農家さんが繋がり、牛糞と米糠を交換して、お互いの仕事に役立てたりしています。
更に、和田酒造さんは、町内の乳業メーカー奥羽乳業株式会社さんとコラボして、ヨーグルトリキュールの開発、販売もしているんですよ!
〈和田酒造 公式ホームページより引用〉
〈和田酒造 公式ホームページより引用〉
ーー業種の垣根を超えた繋がりも強いのですね。
 
今すぐ自分の利益にはならなくても、長期的な目線で「河北町のために」と思って活動している方がたくさんいる町だと思います。
 

地元の魅力を語ることのできる子供たちを増やしたい

ーー「かほく探求実践プロジェクト」を通して、菊池さんは近くで高校生のことを見ていたと思います。菊池さんがこのプロジェクトに期待することを教えてください。
 
高校生の時に、自分の地元と関わる機会ってあまりないと思います。地元が何が作られているのかすら、あまりわからない人もいるのではないでしょうか。それでは悲しいですし、もったいないと感じます。
このようなプロジェクトを通して、地域の人と関わり合うことで、自分の地元の魅力を語ることのできる子供たちを増やしたいなと思うんです。将来、育った町のことを聞かれた時に、「河北町ってこんなもの作ってて、美味しいんだよ!」と言えるようになれば、自然と地元への関心も高まっていくと期待しています。
 
ーー河北町で生まれ育っていない菊池さんが、そこまで河北町のことを思うのはどうしてですか?
 
やはり、自分が住んでみて魅力を感じたのが一番大きいです。自分から見ると、河北町にいること自体、すごく恵まれていると思います。すごくいい町なのに、それを知る機会がないのはもったいない。
学校と自宅の行き来だけでは気付かないことも多いと思うので、河北町の魅力を一つでも多く伝えられたらいいなと思って活動しています。
 
 
続いて、今回高校生を受け入れ、日本酒造りを教えた和田酒造合資会社の社長、和田茂樹(わだ しげき)さんにお話を伺いました。和田さんは、酒造りにおける最高責任者である杜氏(とうじ)でもあります。和田さんはこのプロジェクトに参加し、想像していなかった高校生の姿に驚いたといいます。

和田酒造 和田茂樹さん

 
ーー日本酒造りは、米の状態や環境の変化に合わせた、繊細な作業が求められますね。
 
その年の夏の気候で米の質が変わると言われています。それによって、洗米や仕込みの具合が変わり、発酵にも違いが生まれます。
毎年、その年の米に合った作り方をしなければならないので、「酒造りは毎年1年生」という言葉もあるくらいです。
 
ーー今回仕込んだ日本酒は、どのような風味になるのでしょうか?
 
若い人たちに飲んで欲しいと思い、フルーティーでスッキリとした飲み口を目指しています。雪女神を使った日本酒は甘めになる傾向があるので、スッキリとしながらも、甘みがきちんと残るように発酵を管理していきたいと思っています。
ーー高校生に酒造りを教えてみて、いかがでしたか?
 
昨年、初めての取り組みの前は、正直にいうと「ちょっとめんどくさいと思いながら参加してくるのかな」と想像していました。
でも実際に一緒に仕込みをやってみると、想像していた若者像と違い、みんな積極的に酒造りに参加してくれました。それは今年参加してくれた子供たちも同じで、良い意味でビックリしました。
 
ーーこのプロジェクトを通して、高校生や若い世代に望むことなどはありますか?
 
こうやって酒蔵を訪れ、酒の仕込みをしたことで、日本酒に興味を持ってくれたら嬉しいです。更に、いつか酒造りしてみたいという人が現れてくれたら・・・。そんな思いを持っています。私たちは、そんな若者に支持される日本酒を作っていきたいと思います。
 
 
 

あとがき

2日間、このプロジェクトのみなさんに密着させていただきました。当日、谷地高等学校の堀米和志校長先生にお話を伺った際、「子供たちにいろんなことを“体験”させてあげたい」とおっしゃっていました。まさに、このプロジェクトは、体験することを大事にしている取り組みです。
その思いは、菊地さんや和田さんも同じで、将来の仕事や、興味を持つ分野の“幅”を持たせるために、子供たちに色々なことを経験して欲しいと考えているのが伝わりました。
 
一方の子供たちは、気負いせず、先入観を持たず、目の前の日本酒造りを楽しんでいる様子でした。将来のため、という大人の熱い思いは理解しつつも、手を使い、足を動かして、ものづくりすることの楽しさが伝わっていれば、大人としてとても嬉しく感じます。
 
酒の仕込みが終わった後、参加していた子供たちにインタビューを実施しました。後日、そちらの記事も掲載する予定です。今の10代はどんなことを考えているのか・・・たっぷりとインタビューさせていただきました。どうぞお楽しみに! (ものづくり新聞 記者 中野涼奈、特派員 村山佑月)