【町工場が挑むB2C】人を繋ぐ溶接が目指す、新しい町工場の価値

 
町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです (ものづくり新聞 記者 中野涼奈)

ハタノ製作所 波田野哲二さん

部材の接合部に熱や圧力等を加えて溶かし、冷却することで一つに接合することを溶接といいます。金属を扱う製造業には特に身近なもので、溶接が必要な場合は専門の工場に委託するケースや、自社で溶接機を持っている場合もあります。
ハタノ製作所は溶接の中でもTIG(ティグ)溶接を主とした金属加工を行なっています。TIG溶接とは、Tungsten Inert Gas(タングステン不活性ガス)溶接の省略で、アーク溶接と呼ばれる手法の一つです。鉄鋼、ステンレス、アルミニウム等を接合することができます。

2020年、ハタノ製作所のはじまり

「ハタノ製作所を始める前は、10年ほど別の溶接工場で働いていました。実家なんですけどね。笑 それ以前は一般企業で5年ほどサラリーマンをしていました。」
ハタノ製作所創業のエピソードを尋ねると、波田野さんはなんとそれまで家業にいたとおっしゃっていました。家業が溶接業を営んでいるのになぜ独立したのか、それも新型コロナウイルス感染拡大の最中で・・・いくつかの疑問が浮かびました。
「家業は昔ながらの町工場だったので、やはり閉鎖的だと感じる部分が多々ありました。トップが絶対的な立場で従業員は従うしかなく、お客様と関わることもありませんでした。いずれ自分が跡を継いで変えようと思ったこともありましたが、すぐにそのような機会が訪れるわけでもないので、悶々としながら仕事をしていました。」
波田野さんは今現在にも活かされている溶接の技術を身に付けながらも、仕事をする環境や雰囲気に違和感を感じていたといいます。
「家業に入り6年ほど経った頃、やっぱり家業を離れようかと迷い、サラリーマン時代にお世話になった方に相談すると『やる気のある町工場は沢山あるから、まずそういった人たちと交流してみては?』と助言をいただきました。そこで“おおたオープンファクトリー”というイベントに参加したんです。そこで他の町工場の方や様々な業種の方々と交流することができ、閉鎖的だった世界が少し拓けました。」
 
その後、町工場の方々と知り合うことを目的に、仕事のかたわら、ものづくりにまつわるイベントのボランティア等をしていたという波田野さん。その中で"@カマタ"というクリエイター集団と出会いました。@カマタはデザイナーや建築家などからなるグループで、大田区蒲田が秘めているものづくりの可能性を引き出し、クリエイターのための制作環境を生み出そうと活動しています。
 
「デザイナーやアーティストなどクリエイターの方々とは、それまで一緒に仕事する機会もなければ交流することもありませんでしたから、最初は身構える感じがありました。ある時鉄製のフレームを作れないかと相談があり、話を聞いてみると、その方は、なかなか思い描いているフレームは売っていないし作ってくれる人もいないという悩みを抱えておられました。形状は溶接で比較的簡単に製作できるものだったので、製作して納品するとすごく喜ばれたんです。その時に、自分たちの技術を必要としている人はもっといるんじゃないかと感じ、ワクワクしました。」
 
これまで培ってきた溶接の技術や知識は、町工場の中だけではなくデザイナーやアーティストの方にも求められているのではないかということに気付いたそうです。
多くの町工場は、最終的にデザイナーが設計した製品の一部となるものを作っていても、デザイナーと直接関わることはあまりなく、同じものを作っているという感覚や、想いを共有する機会はほとんどありません。
私も製造業の現場で仕事をした経験があるため、この点に共感しました。
その後、@カマタは東京都大田区の梅屋敷駅近くに"KOCA"という場所をオープンさせました。KOCAは、古くからものづくりが盛んな大田区という場所を活かし、様々なクリエイターが集い新たなものを生み出すものづくりプラットフォームのような役割を持っている施設です。コワーキングスペースでありながら、3Dプリンターやレーザーカッターなどが設置されているファクトリースペースも備えており、ものづくりを通してコミュニティ形成や、地域のものづくりのハブとなることを大切にしています。波田野さんはこのKOCAを創業の拠点とすることを決め入居し、第一歩を踏み出しました。

アーティストの思いを形にするという町工場の新たな仕事

「@カマタの代表で一級建築士の松田和久さんから様々なアーティストを紹介していただき、アーティストの想いを形にする手伝いをするようになりました。」
アーティストの想いを形にするという、これまでの波田野さんにはなかった仕事が生まれました。しかし、アーティストと溶接技術者は畑が違います。その間を取り持ってくれたのが、デザインにも長けていて、なおかつものづくりのことも詳しい松田和久さんでした。デザインを形にするという一見シンプルなことですが、畑が違うと頭に思い浮かべるイメージが異なります。その間をうまく繋げてくれる存在がいたことが双方にとってプラスでした。
KOCAに入居し、間を繋いでくれる人と出会い、アーティストと交流していく中で誕生したのが、溶接茶筒『SUS 50A(サスゴジュウエー)』です。
 
 
「SUSとは製品に使用しているステンレス素材を指し、50A(Φ60.5)というのは外径の大きさを表します。製品名はこれらを組み合わせた造語で、製造業に馴染みのない人からは、一体なんの名前だろうと興味を持ってもらうことを意識して命名しました。」
この茶筒はプロダクトデザインユニットYOCHIYA(畑中庸一郎さん、川名八千世さん)との出会いがきっかけで生まれました。波田野さんはKOCAに入居したばかりの頃、入居する方々と交流するために、ステンレスの端材を溶接したサンプルを持ち歩いていたそうです。YOCHIYAの2人にそのサンプルを見せると、“焼け色が綺麗!”というコメントが。
これは波田野さんにとって思わぬ言葉でした。
 
実際に持ち歩いていた溶接サンプル
実際に持ち歩いていた溶接サンプル
 
“焼け”とはどういうものでしょうか?ステンレスの表面には不動態膜という薄くて強固な膜があり、溶接加工による温度変化などによってこの膜が変化します。この変化がいわゆる“焼け”と呼ばれています。“焼け”は見た目が悪く、溶接加工後は焼けを磨いたり削ったりして取り除くことがほとんどです。
波田野さんは、YOCHIYAさんが焼けを綺麗だと表現したことに新鮮な感覚を覚えたといいます。
「YOCHIYAさんから“形や色のムラが味になる”と言われました。これまではできるだけムラを作らないように加工することが当たり前だったので、違う感覚を持つ人が見るとそう見えるんだと新しい発見でした。」
波田野さんとデザイナーの方々が出会い、お互いの経験や技術を持ち寄った結果、茶筒が生まれたのです。相手の想いを知ることで新しいものが生まれることにワクワクしたと笑顔で語ってくれました。
出来上がった製品は、パッケージを設え、広く一般のお客様に知って購入してもらえたらと、オンラインコマースサービスBASEを利用してネットショップを開設し、販売しています。“焼け色に、新たな価値を”と書かれたサイトで、取材時点(2021年12月)では茶筒のみ購入することができます。
 
同じ材料や条件で加工していても、溶接による焼けはひとつひとつ色や風合いが異なります。波田野さんの作る茶筒の場合、その違いが個性であり魅力です。本来は実物を目で見て気に入る製品を見つけて欲しいところですが、サイト上では難しいため、それぞれの個性がわかる写真を掲載し、シリアルナンバーを付けて販売しています。茶筒『SUS50A』は、波田野さんが作り出す唯一無二の作品なのです。

Twitterで異業種の人と繋がりたい

波田野さんは積極的にSNSを活用し、取り組みやものづくりに掛ける想いを発信しています。(波田野さんTwitter
「町工場とアーティストやデザイナーが一緒にやっているということに、面白いと反応していただけるのは嬉しいです。SNSで発信する際はアーティストや一般の方など、異業種の方々と関わることを意識しています。」
波田野さんにとって、SNSは新たな出会いが生まれる場所です。今後の目標の一つとして、町工場以外の分野の人たちとももっと交流し、ものづくりをしたいと考えています。
これまでの取り組みで、想いを形にしたくてもできず困っていたアーティストやデザイナーが意外にも多くいたことに気付いた波田野さん。そういったクリエイターの想いを汲み取り、表現の手伝いをしていくことが楽しいといいます。
そのきっかけを作る出会いを求めると、やはりSNSでの発信や交流が大事になるともおっしゃっていました。
波田野さんのモットーは『人を繋ぐ溶接
ジャンルや職業を問わず、溶接の技術を必要としている人と繋がり、生まれた製品がまた新しい繋がりを生み出す仕事を目指しています。
 
ハタノ製作所
作業拠点 東京都大田区京浜島2丁目13番3号 城南工業株式会社内
その他拠点 東京都大田区大森西6丁目17番17号 KOCA
ECサイト TETSUJI HATANO