レーザー加工の将棋盤 自分たちの作りたいものを形にするワクワク感がやめられない
町工場が挑むB2Cとは、これまでB2B中心だった町工場(中小製造業)が、自社製品を作り、一般消費者に向けて販売すること。様々な理由からB2Cに注目し、製品開発や販売方法、ブランディングなど新たに挑戦している方々を取材しました。これからB2Cに取り組もうとしている製造業の方や、行き詰まり感や課題を感じている方々のヒントになれば幸いです。(ものづくり新聞 記者 中野涼奈)
株式会社レーザックス 山崎 将太郎さん
愛知県知立市に本社を構える株式会社レーザックスは、ファイバーレーザを始め、様々なレーザ加工機による受託加工をメインに、レーザー加工ヘッドなどの周辺部品の設計・製造なども行なっています。加工分野は幅広く、現在では医療、半導体、航空業界からの受注が多くなっています。今回は、レーザー加工事業部営業課の山崎将太郎(やまざきしょうたろう)さんにお話を伺いました。
外部との繋がりをつくるため
2020年、営業である山崎さんは、新型コロナウイルスの影響を受け、営業のスタイルや外部との繋がり方を変化させる必要があると考えていました。
「展示会が軒並み中止になり、外に出て営業することができなくなりました。営業のやり方そのものを変えないといけないと考えていた時、Twitterの運用を始めてはどうかと考えました。思うように営業ができない時期でしたので、何か得られるものがあればと考えていました。」
「株式会社栗原精機の栗原さんを中心に、様々な町工場の方々が自社製品を開発し、展示会に挑戦していることを知りました。Twitter上で皆さんの動きを見ているうちに『私もそこに飛び込んでみたいな・・・』と思うようになったんです。町工場や製造業の皆さんと一緒に出展すると、仲間作りや交流もできますし、新しい情報を得ることにも繋がると思ったのです。」
展示会に挑戦してみたいという想いを、上司であるレーザー加工部事業部長に相談した上で、町工場プロダクツの一員として東京インターナショナル・ギフト・ショーへ出展することが決まりました。(町工場プロダクツとは、ものづくりコミュニティ『MAKERS LINK』から派生した、自社製品の開発/発表/販売を通じ、町工場の活性化を目的とした活動チーム)
「ギフトショー出ます!と手を挙げたものの、正直その時点では展示会の趣旨をあまり分かっておらず、よく調べてみてはじめてB2C向け製品を展示する展示会だということを知りました。その時はとにかく外に出なきゃ、何かしなきゃという思いが強かったんだと思います。」
10年前にも自社製品を作っていた
ギフトショーへの出展が決まり、展示物などの準備に入った山崎さん。B2C向けの製品を用意する必要がありましたが、実はレーザックスには、既にB2C向けに作った製品があったのです。
「10年前に『iタグ』という自社製品を開発しました。レーザー加工で名前を書くように切断し、くり抜いたネームタグです。レーザー加工機を使って一般の方向けに何か作ってみたいという製造部長の提案から始まった企画でした。発売当初は、売上の一部を災害支援募金などに寄付していたこともありましたが、ここ数年外部への宣伝はあまりしていませんでした。現在も販売はしているものの、基本的に社内にいらした取引先の方などから注文をいただく形のみで販売しています。小さな展示会に出展したこともあったのですが、販売や宣伝に関するノウハウがなく、自然と外へ出す機会が減っていきました。」
レーザー加工を使い、一般の人にも手に取りやすいものを作りたいという思いから開発したiタグ。徐々に展示会や外部に出して販売する機会は減り、現在は愛知県知立市にあるレーザックス本社でのみ販売しています。(用紙に名前を記入し、完成後送付。価格は税込1,000円)
レーザー加工技術を盛り込んだ将棋盤&駒
ギフトショーでは、これまであまり表舞台に出してこなかったiタグを展示することは決めていたものの、山崎さんはそれ以外にも新しく製品や展示物を開発したいと考えていました。
「ギフトショーに向けて何か作れないか考えていると同時に、Twitterの投稿ネタになるものを作れないかと考えていました。面白いネタが欲しかったんです。笑 そんな話を周りにしていると、レーザー加工部事業部長から、『レーザーで将棋盤と駒を作ってみないか』と提案がありました。」
「はじめは将棋ブームにあやかってやってみようという話でしたが、検討してみると、将棋盤や駒は切断や溶接などレーザー加工の技術を盛り込むことができる形状だということがわかりました。珍しいですし、やってみたら面白いかもしれないと思い、挑戦することにしました。」
レーザー加工機で作った将棋盤のサイズは約40cm×60cmです。重さは、見た目ほどは重くなく、女性でも両手で持てる程度だといいます。
「元々はTwitterに投稿する面白ネタの一つから始まったレーザー将棋盤ですが、完成品を投稿すると想像以上の反応を貰えました。作って投稿して楽しんでもらえれば良いかなと考えていましたが、将棋をやっている方から『ここまでこだわっているのなら、文字の字体にもこだわってほしい』とコメントをいただいたこともありました。そう言われたらやってみたくなるメンバーが多いので、作り直して現在の形になっています。」
「弊社の場合、根本に『面白そうなものを形にしてみたい』という思いがあります。自社製品開発に関わるメンバーの共通の考えです。その成果をTwitterや展示会などで関心を持ってもらえると嬉しいなと思います。」
はじめての展示会
新たな営業活動の一つとしてギフトショーに出展したレーザックス。山崎さん個人としては、仲間作り、情報収集という目的も持ちながらの参加となりました。
「想像していたよりも多くの方々に見ていただき、少し驚きました。レーザー将棋盤は結構目立つので、足を止めてくださる方も多かったです。バイヤーやデザイナーの方々からレーザックスではどんなことができるのか?という話もあり、普段はあまり交流のない分野や立場の人と巡り会うことができ、実売に繋がるかどうかよりも、視野が広くなったと感じます。」
「レーザーで細かいカットができるということを、知らない人が意外といらっしゃってびっくりしました。私たちは普段から見慣れているので、当たり前だと思っていましたが、ギフトショーのような製造業系とは違う展示会に出展するのも有意義だと思いました。
ギフトショーをきっかけに、道の駅におけるようなグッズを金属で作りたいという話をいただき、現在進めている最中です。弊社としても、一般の方向けの商品開発に関して勉強しながら取り組んでいます。」
自分たちがワクワクするものづくりを
主に、山崎さんの所属する営業課やレーザ加工事業部長がアイデアを出し、製造部では、部長や係長をはじめとしたメンバーが加工し、形にしています。iタグや、将棋盤のような販促品に近い製品を作っている皆さんには、『ものづくりが好き』という思いが根本にあります。
「現時点では、レーザー将棋盤を販売する予定はありません。販売価格や工数のコストを考えると、正直現実的に難しいと考えています。現段階での私たちの考えは、自分たちが作りたいものを作るというところにあります。次はどんなことができるだろうと、ワクワクしながらものづくりをしているんです。もちろん、販売できるに越したことはないのですが、自分たちの思いを形にすることで社内が活気付く方が今は良いと考えます。」
ものづくりが好きで、自分たちの思うようにものづくりしてみたいという想いを絶やさず、活かすということを大切に自社製品開発を続けていきたいと考えています。
株式会社レーザックス
編集後記
自社製品の開発に至る経緯は様々ありますが、株式会社レーザックスの場合、Twitterがそのきっかけでした。作って投稿してみると、想像以上に反応をいただけて、更に気合が入ったとおっしゃっていました。B2B向けの仕事にはない試行錯誤の楽しさや、面白さがあったのではないかと思います。
もちろん、販売や市場調査も大切ですが、作り手である自分たちが『燃える!』と思うものづくりに挑戦することは、自社製品開発の第一歩なのかもしれません。