町工場に相談するのは怖くない:「カップ型猫用ベッド」開発に迫る

2023年03月01日 公開 
「カップ型なら、いろんな猫ちゃんがカップに入って、コーヒーや紅茶のように見えるのがきっとかわいいなと思って企画しました。」
 
保護猫の「まぐろちゃん」が気持ち良さそうにまどろむのは、段ボールでできた、ティーカップ型の猫用ベッド。株式会社華飛の 千葉麻有(ちば まゆ)さんは、この「カップ型猫用ベッド」を独自企画し、このたび販売を開始しました。その製品が「Maglicia(マグリシア)みっちりカップベッド」。Magliciaとは千葉さん独自の「人と猫の生活を豊かにする」をコンセプトとした猫グッズブランドです。
Maglicia みっちりカップベッド(猫は付属しておりません。モデルは保護猫のまぐろちゃんです。)https://maglicia.com/pages/teacup
Maglicia みっちりカップベッド(猫は付属しておりません。モデルは保護猫のまぐろちゃんです。)https://maglicia.com/pages/teacup
 
商品が届いたときは段ボールが畳まれている状態ですが、たった5分で組み立てが完了します。そして完成したベッドは猫ちゃんがぴったり、そしてみっちりと入るサイズ感。白色の段ボールでできているので、好きな絵を描いたりシールや写真を貼ったり、自分好みのデザインにすることができます。SNS映えする写真の撮影にぴったりです。
カップベッド組み立ての様子
 
この製品を製造したのは、新潟県三条市にある段ボール製造・包装紙材製造の株式会社西山カートンさん。
 
「最初はベッドの組み立てに1時間かかっていたんです。デザインや寸法などいろいろなことを千葉さんとやりとりして、千葉さんの想いを形にすることができました。」と語るのは開発を担当した鈴木樹生(すずき たつき)さん。

10社以上相談してたどり着いた「段ボール」

「カップ型猫用ベッド」を独自企画し、販売開始した千葉さんにお話をお伺いしました。
 
ーー最初の企画段階では何の素材で作る予定だったのですか?
千葉さんプラスチックで考えていました。猫用ベッドは布製のものが多く、汚れると洗うのが大変でした。しかしプラスチックのものはあまりなかったので、プラスチックで作ろうと考えました。
当初の企画案スケッチ
当初の企画案スケッチ
 
ーープラスチックは自分で作るのは難しそうですね。
千葉さん:ものづくりに詳しい知り合いに相談したところ、金型メーカーに聞いた方が良い、ということで知り合い経由で紹介してもらったり、自分でネットで探したりして合計10社にあたりました。「これは作れない」「作れるけど金型費用が600万円にもなる」といった回答でした。そんな中、知り合いに紹介してもらい東京葛飾の金型メーカーさんに相談しました。そこで、「これはプラスチックじゃなくて、段ボールもいいんじゃないか?」というアドバイスをもらったんです。
 
ーー葛飾の金型メーカーさんはプラスチックじゃなくて別のものを提案してくれたんですね。
千葉さん:はい、優しく教えていただきました。
 
ーーそこから段ボールのメーカーさんを探したのですか?
千葉さん:はい、やはりものづくりに詳しい知り合いにお願いして、2社の段ボールメーカーを紹介していただきました。1社はその時期お忙しかったようで難しいということだったのですが、もう1社はすぐにお返事をいただけました。
 
ーーその1社が西山カートンさんだったのですね。
千葉さん:はい、そうです。すぐにお見積りをいただけただけではなく、試作品を2種類作っていただき、その写真を送っていただけました。
 
ーー試作品を2種類ですか?実際に段ボールで作ったということですよね。
千葉さん:はい、具体的にイメージできたので、これなら段ボールで作れそうだなと思いました。
 

依頼があればとにかく考えてみる、それが西山カートン流です。

千葉さんから依頼を受け、試作品を2種類提供したという、株式会社西山カートンの代表取締役 西山徳芳(にしやま よしのり)さんと、鈴木樹生(すずき たつき)さんにお話をお聞きしました。
株式会社西山カートン代表取締役 西山徳芳さん
株式会社西山カートン代表取締役 西山徳芳さん
株式会社西山カートン 鈴木樹生さん
株式会社西山カートン 鈴木樹生さん
 
ーーいきなり、試作品を2種類も提供したのですね。
西山さん:社員の2名にそれぞれアイデアを出してみて、とお願いして作ってもらいました。
ーーそのうちの1名が鈴木さんのアイデアだったのですね。
鈴木さん:はい、私のアイデアでした。
ーーということは、2人のコンペになっていたということですね。そして千葉さんに選ばれたのが鈴木さん。
鈴木さん:そうですね(笑)。 私のアイデアはどうやって丸型のカップの形に近づけるかということでした。しかし段ボールだと曲面を表現するのは難しいので、八角形を選びました。
 
ーー結果として、その案で量産されたのですか?
鈴木さん:いえ、最初の私の案は組み立てに1時間かかるものでした。プラモデルのように組み立てる過程が楽しいのではないかと考えて、敢えてそういう案にしていました。
 
ーー猫用ベッドを組み立てるのも楽しんでもらおうと思われたのですね。
鈴木さん:はい、そう考えました。しかし、千葉さんとお話しすると「1時間はさすがに難しいので、もっと簡単に組み立てられるようにならないでしょうか」とご指摘を受けました。
 
ーーその後も何度も千葉さんとやりとりされたのですか?
鈴木さん:はい、全部リモートでしたが、何度もやりとりをさせていただき、こちらからも再度の試作品を2度お送りしました。
 
ーー千葉さんとの調整はうまくいきましたか?
鈴木さん:私たちの力不足ですが、使う側のお考えをちゃんと汲みきれていなかったところがあったと思っています。使う側と作る側の考えていることは違うので、そこをちゃんと考えなければいけなかったと思いました。たとえば、使う人は組み立てるのにそんなに時間をかけたくないといったことです。
 
 
ーーしかし、試作品をすぐにご提供された西山カートンさんはすごいですね。
西山さん:とりあえずご依頼をいただいたら考えてみる。5分で思いつかないものは思いつきません。すぐ考えればアイデアが「降りてくる」瞬間があります。それが西山カートン流です。

開発型の商品に積極的に取り組む

ーー西山カートンのご紹介をお願いします。
西山さん:西山カートンは新潟県の燕三条という地域にあります。周辺には金属関係のさまざまな工場があり、私たちはその金属などの製品を梱包するための段ボールをご提供しています。 フライパンを梱包する段ボールや、工具を梱包する段ボールなど、段ボールの構造設計を得意としています。自社でも「みこし」というお神輿を段ボールで組み立てられるキットを販売しています。
 
ーーどんな雰囲気の社風ですか?
鈴木さん:どんどんチャレンジしていい、”やってみる”ということができる会社です。
 
ーー今後、どのような製品に挑戦したいですか?
西山さん:自分たちがこれまで主に梱包や容器を手掛けてきましたので、今回の猫ベッドのように容器ではないものを作ってみたいです。
 
ーーそれはどうしてですか?
西山さん:他の人が考えていないことだからです。「これが段ボールで作られているの?」というものを手掛けてみたいです。
 

猫好きのクリエイターを支えたい

ーーもう一度千葉さんにお聞きします。今回段ボール製の猫ベッドを販売できるところまできたのですが、今後はどのようなことに取り組みたいと考えていますか?
千葉さん:「人と猫の生活を豊かにする」をコンセプトとした『マグリシア』というブランドで、猫のため、猫好きの人たちのために商品を提供していきたいと考えています。「猫と人が幸せになれる暮らし」を目指して、キャラクター商品やおもちゃなども考えています。
 
ーーそのブランド以外ではいかがですか?
千葉さん:今回、ものを作っていく過程で、いろいろな人たちにお世話になりました。周りの方々に助けられて製品化することができました。これからは、クリエイターの人たちを支援する側に回っていきたいと思います。
 
ーー具体的にはどのようなご支援ですか?
千葉さん:現在も、企画、販売促進、マーケティング、ウェブサイトなど、いろいろとお手伝いしていますが、イベントを開催してクリエイターの方々を支援する予定です。直近では、2023年6月に「猫道楽」というイベントを東京都台東区で開催予定です。猫好きな方々がハンドメイド作品や雑貨を販売するイベントです。
 
ーーこれから、自分の企画したものを作ってみたいという方々にアドバイスをいただけますか?
千葉さん:今回自分自身も経験してわかったことですが、ものを作って販売していくのは大変です。しかし、思ったよりもミニマムに、小さくできることもわかりました。たとえばサンプルを作るだけであれば町工場の方々もご協力いただけますし、可能性を探ることはできると思います。
 
ーーまずはやってみる、行動してみるということが大切でしょうか?
千葉さん:はい、行動して自分自身でやってみることが大切だと思います。仮に段ボールなら、自分で試作品を作ることもできると思います。まずは、ぜひ無理はせず、できる範囲で小さいことからトライしてみてほしいと思います。
 

町工場にどんどん相談に来てほしい

ーー西山カートンさんからメッセージがあればお願いします。
西山さん:私たちはどんなご相談でもまずは考えてみるスタンスです。燕三条で開催されている「工場の祭典」の期間中、西山カートンはオープンファクトリーに参加していたのですが、各地の学生の方々から、「こんな段ボール作品が作りたい」というご依頼をたくさん頂戴しました。まずは私たちにご相談いただければと思っています!
 
ーー千葉さんからもメッセージをお願いします。
千葉さん:私は知り合い経由で町工場の方々にご相談して今回の製品が実現しました。町工場の方々には自分たちの領域を超えて、いろいろなアドバイスをしていただきました。専門性の高い町工場の方々には相談しづらい印象があるかもしれませんが、ぜひ相談してみてほしいです。
 

編集後記

工場や製造現場を持たない人が思いついた企画、それを実際に量産し販売する、ということは大変なことだと思っていました。しかし、意外にも、実現することができるのだと思いました。今回は、たまたま出会った段ボールメーカーさんとのコラボレーションにより実現することができたわけですが、一緒にやってみればできるんだ、ということをこの記事で実感いただければと思います。
 
みなさんも、自分の頭の中にある企画を、製品にしてみませんか?
 
 
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