現役製造業女子に直撃!ものづくり企業で働くのって、どうですか?

2023年03月16日 公開
今回は、金型メーカーで活躍するお二人の女性のインタビューです。
金型業界という未知の世界に飛び込んだお二人の“現在地”をたっぷり伺いました。この記事は、特に就職・転職活動中の方々に見ていただきたいと思います。「ものづくりって楽しいかも!」と思っていただけたら、嬉しいです。
 
ものづくり、の前に、まずはこちらの建物をご紹介します遊び心ある壁面が印象的な“工場っぽくない”見た目の建物です。
お気付きですか?パイプ(雨どい)も壁の色に合わせて塗装されているんです!
お気付きですか?パイプ(雨どい)も壁の色に合わせて塗装されているんです
中に入ってみると、随所に木材を使用したあたたかい雰囲気の空間が出迎えてくれました。
このドアの取手は、先代の社長が自ら山に行き、この空間に合う枝を探し出し、取り付けそうです。
こちらは入ってすぐにある打ち合わせスペースです。2023年1月に新社長が就任され、お祝いの花でいっぱいでした。
 
今回ご紹介するの埼玉県入間市の、株式会社狭山金型製作所です。狭山金型製作所は、精密成形用金型の設計、製作などを行っています。狭山金型製作所が追い求める精密とは、通行する車の振動さえ加工に影響してしまうサブミクロンの世界(1万分の1ミリ。 1ミクロンの10分の1)。そのため、自然豊かで、振動の影響が少ないこの場所に工場を構えました。
加工現場への入り口はなんと地下。徹底的に振動を避けるための構造です。
加工現場への入り口はなんと地下。徹底的に振動を避けるための構造です。
狭山金型製作所の手掛ける金型は、一般的な部品よりも更に細かく分かれており、それを積み重ねるようにして金型を組み立てています。そうすることによって、メンテナンスがしやすくなり、金型の寿命も長くなるそうです。
 
また、長年培ってきた技術を結集させ、樹脂製注射針の開発にも成功しました。
それが、『PEEK樹脂製注射針』です
狭山金型製作所 提供
狭山金型製作所 提供
注射針の先端部分です。
注射針の先端部分です。
10円玉(約23.5ミリ)と比べると、どれだけ小さいかがわかります。
10円玉(約23.5ミリ)と比べると、どれだけ小さいかがわかります。
樹脂製注射針は先端が丸みを帯びているため、細胞を切らずに押しのけるようにして注射することができます。そのため、痛みの軽減も期待できるといいます

「金型」の世界ってどう?未知の世界に飛び込んだ2人の女性の本音を直撃

サブミクロンという精密さを求められる金型の世界で、未経験ながらそれぞれの担当で活躍されている営業職の東 香奈恵(あずま かなえ)さん、金型メンテナンス担当の 平川 真由美(ひらかわ まゆみ)さんです。
東さんは体育大学を卒業後、新卒で入社。平川さんは生まれ育った兵庫を離れ、転職を決意し入社しました。それぞれの思いを持ち、金型メーカーで奮闘する東さんと平川さんの魅力に迫ります。
(左より)東 香奈恵さん、平川真由美さん
(左より)東 香奈恵さん、平川真由美さん
 

東 香奈恵さん

ーー東さんは体育大学をご卒業されていると伺いました。子供の頃から活発なタイプでしたか?
 
小学生の頃は自分に自信がなく、意思決定ができない気弱な性格で、常に親の顔色を伺って自分一人では決断ができない子どもでした。高校時代にハンドボールに夢中になったことがきっかけで、体力にも自信がつき、アクティブに活動するタイプになりましたね。
 
ーーそうなんですね!趣味や好きなことはありますか?
 
会社のInstagramを担当するようになってから、写真を撮るのが好きです。会社の周りが自然豊かな場所なので、シャッターチャンスを狙ううちに、季節の変化を感じるようにもなりました。春は桜、夏はギラギラの太陽、秋は紅葉と落ち葉、冬は何もないのが少し寂しいですが、そういう木々やにおいの変化が楽しいです。この場所に会社があるからこそですね。
 
狭山金型製作所の目の前の景色です。お茶の産地(狭山茶)ならではの光景です。
狭山金型製作所の目の前の景色です。お茶の産地(狭山茶)ならではの光景です。
春には桜を咲かせる狭山金型製作所のシンボルツリー。
春には桜を咲かせる狭山金型製作所のシンボルツリー。
ーー体育大学から金型屋。珍しいご経歴だと思います。
 
高校3年生で進路を考えた時、夢や目標がなく、自信もなく、何となく親や学校の先生に言われた「子どもが好きなら、小学校の先生が合うんじゃない」という言葉の通りに大学進学を決めました。
自分で考えて決めた決断ではなかったことに加え、大学で学ぶ「目的」がなかったので、大学1年生の4月に、何も考えずに進んでしまった自分自身の決断に後悔をしました。もう、同じ後悔はしたくない、とその時強く思ったんです。
自分で考えて行動しなきゃ!という原動力はその時の後悔だったんですよ。
 
ーーなるほど。その原動力を手にした東さんは、その後どうされたのですか?
 
自分の意思で未来を選択できる人間になりたいと思い、大学生3年生から始めたコミュニティの活動で、イベントを企画したり、福島県の復興支援イベントの企画に携わったり、仲間や社会のために、自分たちで考えて行動するということにとにかく一生懸命になった大学時代でした。
ーー狭山金型製作所に入社したいと思った、その決め手は何でしたか?
 
就職活動をしている時に、あるコミュニティの活動で中小企業の社長にお時間をいただき、仕事や社会のことだけでなく、夢や志、人生、やりがいや幸についてお話をいただく場がありました。そこで、弊社の会長(当時社長)の大場治と出会い、話を聞いてワクワクしたんです。
 
ーーワクワク!どんなところにワクワクしたんですか?
 
当時、学校現場で働くか、一般企業に就職するかの2択で考えていました。アルバイトで塾の講師を3年半やっていて、子供たちと触れ合うことにも興味がありましたが、教師や塾の講師になった後の自分の姿は簡単に想像ができてしまい、ワクワクしなかったんです。
 
だからといって、その時はものづくりや金型に興味を持ったわけではなかったんですが・・・“先が見えない”というところにワクワクしたんです。きっと、自分とは違うタイプの人も多いと思いましたが、あえて知らない世界に飛び込んでみたくなり、狭山金型製作所に入社したいと思いました。それに、弊社の会長は子供の教育に熱い思いを持っていて、共感しました。
 
ーー金型メーカーの会長さんが、教育に熱い思いですか?
 
弊社の会長は、高校生に仕事のやりがいや、社会で働く面白さを語る活動を続けていたり、子供たちの工場見学を積極的に受け入れていたりと、子供の教育に対して熱いんです。会長だけではなく、社長や先輩方も教育や学ぶことに対して積極的な雰囲気があります。自分自身もこれまで関わったことのない分野に飛び込むことで、より勉強になるかもしれないと思いました。
 

「なんで掃除してないの?」が「気付いた私が掃除すればいい」に変わった

ーー営業の仕事について教えてください。
 
会長と社長がメインでやってきた営業に私が入り、今は2人をサポートをしながら営業について勉強しています。自分だけじゃ回答できない問い合わせなどもあり、まだまだ学ぶことは多いですが、いずれ新しいお客様とも繋がり、幅が広がるような営業活動をしたいと思っています。
 
ーー新卒入社で2年間仕事をしてみて、何か変化や発見などはありましたか?
 
例えば、実家に帰ってお手洗いが汚れていたのを見たら、前の自分だったら親に対して「なんで掃除してないんだ」と思っていましたが、今は自分で掃除すればいいし、やるべきだと思うようになりました。
 
それは、この会社で働くみんなが、「汚れているのを見つけたら、掃除する」というのを当たり前にやっているからです。社内全体にそういう空気があるので、自分もそれが当たり前になっていきました。
 
ーー東さんは、狭山金型製作所をどんな会社だと感じていますか?
 
仕事も掃除も、丁寧で雑な人がいない会社だと思っています。1ヶ月前に現場で金型の洗浄をさせてもらった時に、大変な作業をひとつひとつ丁寧にやっている現場の方々の凄さを感じました。私は結構雑なタイプだったのですが、良い影響を受けて丁寧に仕事しようと心がけています。
ーー現在の課題や、強化していきたいことはありますか?
 
沢山ありますが、弊社が作った金型で成形された部品を見ると、どの分野に使われているか、どんなニーズがあってその部品が必要とされているかなど、わかることがあります。作っているものがどう役に立っているのか、もっと広いところから知って、知識を深めていきたいと思います。
 
ーーなるほど。長い目で見て、成し遂げたいことはありますか?
 
私がこの会社に残せるものは何かと考えた時に、営業としての土台を残して、誰でもできる仕事にすることだと思いました。現場の仕事もそうですが、見て覚えるという文化が根強い世界で、私もはじめに何をしたらいいのか、わからなかったですからね。
 
もちろん見て学ぶことは沢山ありますが、例えばお客様に対してアポを取るのに、これまでどのようなお客様に連絡をしてきてたのか?メールのやり取りは?どんな仕事があるの?など、これまでの蓄積されたものがあれば、未来も後輩の力になれると思いました。私のミッションは営業の仕事を覚えつつ、未来の後輩のために実績を形に残すことだと考えています。
 
 

製造業に入って見えた、見えないところで頑張っている人の姿

ーーこれからの人生をどんなものにしていきたいとお考えですか?
 
家庭での幸せも、仕事での幸せもどちらも大事にしていきたいなと思います。入社して、中小企業を家族で守っている姿や、働いていて色々な人たちと出会っていく中で、身近な人たちを幸せにしたいという思いが強くなりました。私が元気に働く姿を家族がいつも応援してくれているように、私もそんな家族を作りたいなと思っています。
 
ーー今、製造業やものづくりに関して、考えていることなどがあれば教えてください。
 
私は製造業の世界に入り、外からは見えない部品を作っている人たちがいて、その人たちがいるから製品が成り立っていると気付けたことが、ものすごく大きな喜びでした。
 
製造業という選択をしたことで見えたこと、わかったことを若い世代の人たちにも見てもらえるように、発信していきたいです。若い人が集まる会社に、未来があると思っているので、そういう会社になるように、その土台だけでも作りたいなと思っています。
 
ーー東さんなら、「ものづくりって、いいかもしれない」と思っている後輩たちにどんな言葉を掛けますか?
 
まず工場を見に来てください。先入観やイメージで判断せず、懸命にものづくりをしている人と関わることで、工場で働く人たちのプライドや生き様を感じることができると思います。
 
ホームページだけじゃ、どんな人がどんな思いで働いているか、どんな先輩がいるかわからないとも思うんです。だから、是非工場見学に来て、自分の目で見て、肌で感じてほしいです!
 
 

平川真由美さん

ーー平川さんは兵庫県のご出身だそうですが、どういったきっかけで関東にいらっしゃったのでしょうか?
 
29歳までは親と暮らしていたんですが、30歳の節目を迎えた時に、これを機に自立しようと思い立って、東京に引っ越してきました。関西にいた頃から、東京に遊びに行くことが多くて、いつか住んでみたいと思っていたので思い切りました。
 
ーーそうなんですね!金型業界には接点はあったのですか?
 
全く接点はなくて、職業訓練校でプラスチック加工による作品を見て、興味を持ちました。
 
ーープラスチック加工のどんなところに興味を持ちましたか?
 
プラスチック製品って金型を使ってこういうふうに作られているんだと知り、面白いなと思いました。狭山金型製作所を見学した時は、たしかに男性が多い職場でしたが、女性でも歓迎しますと言っていただき、飛び込んでみようかなと思いました。
ーー現在はどのような仕事を担当されていますか?
 
主に金型のメンテナンスを担当しています。成形現場から戻ってきた金型を分解し、超音波などを使って洗浄し、サビ止めをかけて再度組み立てます。その際、壊れている部品があれば修理もしますが、修理に関してはまだ勉強中です。
 
 
ーー金型が小さく、細かいパーツに分かれていると伺いました。組み立てるのが難しそうです。
 
はい、最初はなかなか理解できませんでした。組み立て図面を見ても難しく苦戦していましたが、細かい作業が得意だったのと、先輩方が丁寧に根気強く教えてくださったので、ちょっとずつ慣れてきました。
 
ーー先輩方や会社の雰囲気はいかがですか?
 
みなさん優しく丁寧に教えてくれるんです。入社前の工場見学で魅力に感じた、会社のあたたかい雰囲気は今も変わりませんね。仕事は、上司の仕事をサポートしながら、横でメモを取って勉強していく形で覚えていきました。実際に仕事を進めていく中で、わからないことを気兼ねなく聞けるのは本当にありがたかったです。
 
ーーいわゆる研修の期間はどのくらいでしたか?
 
半年くらい、上司について勉強しながら少しずつ仕事を教えてもらいました。今は基本的にはひとりでメンテナンスをし、わからないことがあれば近くに上司がいるのですぐに聞いて対応しています。

金型のメンテナンスだけじゃない!才能発揮中

ーーメンテナンスの仕事以外でも、才能を発揮されていることがあるそうですね・・・?
 
私、絵を描くことが好きで、オリジナルキャラクターの「メンテちゃん」と「金型さん」を生み出しました(笑)趣味の一環で描いていたら、東さんがすごく推してくれて、会社のお知らせやちょっとしたポスターに度々登場させています。
メンテちゃんと金型さん
メンテちゃんと金型さん
ーーかわいいですね!これはどうやって描いているんですか?
 
スマホアプリでタッチペンを使い描いています。電車に乗っている時など、隙間時間に描くことが多いですね。
 
ーーメンテちゃんのモデルは、もしかして平川さんですか?
 
そうです(笑)活発な金型メンテナンス担当というイメージで描いています。メンテナンス予定表にも描いていたらみなさん覚えてくれて、「メンテちゃんだ!」と言ってくださるので、とても嬉しいです。
ーー仕事をしていて嬉しい瞬間を教えてください。
 
組み立てた金型が成形を終え、メンテナンスに返ってくると、「無事に打てた(成形できた)んだ、おかえりー!」という気持ちになりますね。自分で組み立てたりメンテナンスした金型は気になるので、「ちゃんと成形できたよ」と聞くとすごく安心します。自分で組み立てた金型を、自分で成形することもたまにあるので、その時はうまくできたら尚更嬉しいです!
 
ーー平川さんから見て、狭山金型製作所はどんな会社ですか?
 
安心感のある会社です。新しい会社に入る時ってとても緊張すると思うんですが、最初から歓迎してくれる雰囲気があり、リラックスして仕事できるところが好きです。働いている人だけじゃなくて、建物もすごく好きなんです。建物や人含めて、この場所が受け入れてくれる感じがしてホッとします。
ーー急な休みや早退はどのようにカバーしていますか?
 
現時点では、同じ部署のメンバーがカバーしていますが、これからは、“誰でもカバーできるようになろう”と、他部署の仕事も勉強しているところです。他部署の仕事を全部を覚えることは難しくても、流れとポイントがわかっていればある程度はフォローできるようになります。空いている時間などに積極的に勉強しているところです。
 
ーー金型製造の仕事は、手順書やマニュアルにするのが難しい仕事もあるのではないかと思います。狭山金型製作所では、技術やコツの伝達はどのようにしていますか?
 
マニュアルと口頭の半々くらいかなと思います。大まかな流れはマニュアルで大丈夫ですが、重要なポイントや注意点は口頭で言ってもらえると、より納得して理解できると感じます。マニュアルは何年も前にExcelなどで作った資料が保存されており、必要に応じてどんどん付け足しています。もう一度確認したいことはこれを見るとわかることもあるので、安心材料の一つになっています。
 

金型の深いところまで学び、理解したい

ーー挑戦したいことはありますか?
 
金型のメンテナンスから成形までできるようになりたいです。自分でメンテナンスした金型を、条件出しし、成形するというのは憧れですね。射出成形技能士の資格試験にも挑戦して、昨年は一歩及ばずな結果でしたが、諦めず仕事しながら勉強もしていきたいと思っています。
 
ーー今後の課題があれば教えてください。
 
私はどちらかと言うと、仕事はやってみて身体で覚えるタイプです。難しい単語ややり方は聞いただけではなかなか理解できないことがあります。でも、機械の操作だけではなく、理論の部分もわかるようになりたいと思っています。ただ機械や道具を使って仕事するだけではなく、もっと深くて細かいところも理解したいです。
 
ーーメンテナンスの仕事以外で挑戦したいことはありますか?
 
イラストでも会社の役に立つことができればと思っています。東さんがすごくノリ気で、一緒にやりましょうと言ってくれるので、メンテちゃんを使ったSNS発信なども一緒にやってみたいです!本格的に動き出そうと話しているところなので、大好きなイラストの仕事ができるかもしれないことにワクワクしています!
 
 
株式会社狭山金型製作所
所在 埼玉県入間市宮寺756-4
 

あとがき

金属を扱う会社や工場はメタリックなイメージですが、木目の雰囲気を大事にした造りからは、お二人のお話でもあるように、人を受け入れるあたたかみがある狭山金型製作所をイメージされているのかもしれないなと感じる建物でした。初めて来たはずなのに、どこか懐かしいあたたかみがあり、お二人のおっしゃっていた居心地の良さがわかる気がしました。(ものづくり新聞 中野涼奈)
 
狭山の緑あふれる場所にある工場は、見た目には金型を製造しているとは思えない雰囲気にとても驚きました。挑戦することを会社全体が応援してくれる、と嬉しそうに話されているのが印象的でした。顧客からの難しい要求にもみんなで挑戦して応えていく、目には見えない会社のアツい気持ちが随所に感じられ、感銘を受けました。(ものづくり新聞 特派員 平川奈々)
 
お二人は、ものづくり新聞がお届けする、ものづくりで働く女性に向けたマガジンサイト「丸いすとコーヒー」にも登場しています!
トップページの写真は、東さんにモデルを務めていただきました!
 
東さんや平川さんのような、ものづくりの世界で頑張る女性のみなさんに見ていただきたいサイトです。こちらも併せてご覧ください。
 
\丸いすとコーヒーInatagramやってます!/