デジタルなものづくりから、リアルな製造業へ 100年続く町工場でDXを推進する5代目アトツギの挑戦

 
今回は自動車シートの木型などを製造されている株式会社昭和製作所の奥野雄大さんにインタビューしました。
奥野さんはデジタル系制作会社勤務を経て、2014年に家業である昭和製作所に入社し、以来6年以上インドネシア工場で営業や製造管理に従事されています。
100年以上続く町工場の次期後継として、DXにチャレンジする奥野さんはどんな未来を描いているのでしょうか?
 

デジタル系とリアルな製造業は実は似ている!

 
🗞家業を継ぐ前は東京で勤務されていたのですよね?
「はい。昭和製作所に入社する前は、6年半程IT関連の制作会社でコンサルタントや営業職を経験しました。Webサイトアクセス分析などのマーケティングの業務を経て、営業職では制作の方針決めや進捗管理などお客様と接する機会も多かったです。」
 
🗞昭和製作所さんとは異なる業界ですね。
「確かに業界は異なりますが、”ものづくり”という観点ではデジタルの制作も、リアルな製造業も共通していると感じます。ただ、デジタルはやり直しが効きますが、製造業ではそうはいかないことも多いですね。」
 
🗞デジタルとリアルのものづくりの共通点は、具体的にどんなところにあると思いますか?
ゼロからものを生み出す苦労は両方にありますね。新しいことに挑戦する時もやりがいがある反面、乗り越える壁も多々あります。それはデジタルもリアルも変わらないと思います。」
 
🗞幼少期からものづくりに関心があったのでしょうか?
「父親は職人で絵やものづくりが得意な一方で、私自身はあまり得意ではなく図画工作の授業にはむちゃくちゃ苦手意識がありました。笑
 
🗞そうなんですね!どんなお子さんだったのでしょうか?
「幼い頃、自分たちの家族だけでなく、両親の友人なども一緒によく旅行に行っていたんです。人数が多い時は、バス1台借りて出かけたこともありました。それが楽しくて好きでしたね。人とのつながりの中で一緒に何か楽しいことをするのは、仕事やプライベート問わず今でも好きです。」
 
🗞現在インドネシアにお住まいとのことですが、休日はどう過ごされていますか?
「ビジネスでの交流も兼ねて、少人数でゴルフに行ったりしています。コロナ禍以前は、友人と集まってバーベキューすることも多かったですね。」
 
 
🗞インドネシアで交流のある方々は日本人の方が多いのでしょうか?
「インドネシア人の友達もいますが、ビジネスでインドネシアに来られている日本人との結びつきは強いですね。仕事をきっかけに知り合い、仲良くなった方々が多いです。」
 

家業の海外進出 心配、だけどちょっと面白そう・・・!

 
🗞昭和製作所さんの事業に共通して必要な技術はありますか?
材料を精確に形にする技術ですね。指示通りに加工するだけでなく、最終仕上げの手作業などにはノウハウが必要です。」
 
 
🗞いわゆる一人前になるには結構時間がかかりますか?
なんでもできるようになるには10年くらいはかかりますね。自動車シートだとゲージを当てながら微調整したり、航空機向けの製品の場合は3次元測定機も使いながら加工していくので、高度な技術が必要とされます。」
 
🗞インドネシアに進出を決めたきっかけは何だったのでしょうか?
「一番のきっかけは、弊社の仕事の後工程を担当しているパートナー企業さんから声をかけてもらったことですね。金型メーカーさんなのですが、自分たちの工程だけでも成り立たないし、資金も分担すれば進出しやすいというお話があり、決断しました。ベトナム、タイ、中国なども視察した結果、インドネシアに決まりましたね。」
 
🗞インドネシアという国に決めた理由はありますか?
「進出のタイミングでは、競合があまりなくビジネスしやすいというところに魅力を感じました。たとえばタイだと、自動車シートの分野で弊社と競合になる企業が既にいて参入しづらかったんです。中国も同様です。その点インドネシアは競合が少なく、参入しやすいと判断しました。実際にインドネシアでやってみても、その読みは正しかったと感じます。」
 
🗞それは良かったです!奥野さんが家業である昭和製作所に入社したきっかけはインドネシア進出だったのですよね。
「新卒で就職してから東京で働いていましたが、将来的に東京を離れることや、留学することも思い描いていました。そんな時に父から昭和製作所が海外進出することになったと聞いたのです。その時は家業に入るつもりはなかったのですが、現地の人事マネージャーを採用するにあたって英語の履歴書を翻訳してほしいと頼まれたんです。それを聞いた時、大丈夫か?と心配になった反面、ちょっと楽しそうだなと感じて、協力させて欲しいと伝えて入社しました。」
 
当時の心境を振り返りまとめた資料 奥野さん提供
当時の心境を振り返りまとめた資料 奥野さん提供
 
🗞なるほど。家族として心配しつつも、魅力を感じたのですね。現地の技術スタッフの方々の教育は奥野さんが行っていたのでしょうか?
「インドネシア工場がスタートした当初は、駐在の日本人技術スタッフ1名に加えて、日本から社長や他の技術スタッフが短期出張して技術移転していました。現在はインドネシア社内でOJTで教育しています。最低限の日本語が話せるインドネシア人のスタッフを採用しているので、私とのコミュニケーションもそこまで苦労はありません日本で技能実習生として3年間勤めていた方もいるんですよ。」
 
インドネシア工場の皆さん
インドネシア工場の皆さん
 
🗞インドネシアだけで行っている自動車内部のカーペット型製造はどういったきっかけで行うようになったのですか?
「2017年頃、駐在していた日本人の技術スタッフを中心にイチから立ち上げました。一緒にインドネシアに進出した金型メーカーさんの協力もあり、事業として成り立つ形になりました。」
 
🗞インドネシアで仕事をするにあたって苦労した点はありましたか?
材料が手に入りにくいことですね。未だに日本から調達しているものもありますし、調達できないものは何とか手に入る範囲のものを工夫して使用しています。特に瞬間接着剤などは質の良いものが現地で手に入らないので、乾燥時間を長くするなど工夫が必要です。木材も手に入りづらいですね。例えば木型の枠や補強などに使うベニヤ板は、プレスが弱く品質の悪いものが多いです。インドネシアは林業国ですが、良質な木材は先進国へ輸出することが多くて、なかなか国内には残らないようです。」
 
🗞他に苦労したことはありますか?
スタッフの仕事に向かう姿勢は日本と違うので、初めの頃は苦労しました。インドネシアの方々にとって宗教は重要で、お祈りの時間を阻害してはいけないという決まりがあるんです。お祈りの時間になると、工場のすぐ近くにある共同の祈祷場でお祈りしたり、断食の時期になると集中力が下がるので生産性が落ちたりということもありますが、そういう部分も含めてリスペクトするようにしています。」
 
🗞インドネシア独自の苦労があるのですね。反対に、良かった点はありますか?
「良い点は営業がしやすいところですね。日本だと各社既に固定の付き合いがあり、しがらみもありますが、インドネシアはそういったことが基本的にはありません。更に、対面する日本人の方が決裁権を持っていることが多く、仕事の意思決定も早いです。」
 
インドネシア工場の様子
インドネシア工場の様子
 
🗞具体的な事例はありますか?
「日本ではお付き合いのなかった自動車メーカーと、インドネシアでの交流がきっかけで日本でもビジネスを展開することになりました。つい最近も大手電機メーカーから直接お問い合わせがありました。そういった新しい関係を作りやすいことが魅力ですね。」
 
🗞大手電機メーカーの方が直接奥野さんを訪ねてきたというのは、何がきっかけだったのでしょうか?
人のつながりですね。インドネシアでお付き合いのある自動車メーカーの担当者と、その電機メーカーの方が日本人同士で交流があり、弊社を紹介していただきました。」
 
🗞海外進出すると、日本人同士、企業を超えた横のつながりが強くなるのですね。
「そうですね。交流やつながりを大事にしていると、その先で助け合えたり協力していただけることがあるんだなと感じます。私が幹事を務めている町工場の会の活動でもそういったつながりを大切にしています。」
 
🗞町工場の会について教えていただけますか?
「ジャカルタ近郊に進出している日系の町工場が集まり、日頃の悩みや解決策などを相談できる会です。現在コロナ禍で活動が止まっていますが、以前は月1で定例会を開き、板金加工業、切削加工業など40社60名以上が加入していました。町工場から海外赴任される方は製造、営業、管理など、幅広く業務を任されている方が多いので、現場の悩みなどを相談し合いながら一緒にやっていこうという雰囲気でしたね。町工場の会での交流のおかげもあり、少しずつ調達が楽になってきたという実感がありました。」
 
🗞奥野さんが設立に関わられて町工場の会は誕生したのですか?
「私たちは町工場の会2代目の幹事で、立ち上げメンバーは既に帰任されています。2代目に代替わりした時に、名簿の整理やルールなどを整えました。コロナ禍が開けたらまた始動したいですね。」
 

老舗町工場が挑むDX

🗞奥野さんは新しい取り組みとしてDXを推進されていると伺いました。具体的にはどのようなことを行っているのでしょうか?
【日本&インドネシア 】🇯🇵🇮🇩
・事務作業、営業用案件管理、工程管理・・・Google Workspace
・社内の情報共有・・・Chatwork(2021/6現在:リーダーのみ利用)
 
【日本】🇯🇵
・会計、経理管理・・・クラウド会計ソフトfreee
・請求書発行・・・クラウド請求書ソフトboard
 
🗞Google Workspaceはどのような場面で活用されているのでしょうか?
「スプレッドシートを活用し、案件管理は2015年から工程管理は2017年から運用を始め現在は日本とインドネシア両方で運用しています。両国から工程や案件を確認することができるので情報共有に役立っています工程に対する作業実績の管理は個人のシートを用意し案件と紐づけて工数の入力をし始めました。まだ始めたばかりですが、今後は実績収集した結果を原価管理につなげていく予定です。」
 
🗞Chatworkを利用する前、情報共有などはどうされていたのですか?
メールです。手間もかかりますし、誤送信などのリスクもあるのでチャットを使いたいと思っていました。2020年に私が日本に一時帰国した際にサポートしながら導入を試み、現在に至ります。実は2014年に入社した頃からその思いがあり、数々のサービスを導入しようとしましたが、なかなかうまくいかなかった過去もあるので、ほっとしています。コロナ禍という環境の中、データの受け渡しやコミュニケーションのあり方など、メンバーの中でも考え方が変わったようで、そういった追い風もあり浸透していったと感じています。」
 
🗞もうリーダー陣はChatworkを使いこなしていますか?
現社長の父親は結構慣れて使えるようになってきていますね。時間はかかりましたが、現在では使いこなしています。リーダー陣から始めて最終的には全体に浸透させたいですね。」
 
🗞クラウド会計ソフト『freee』クラウド請求書ソフトの『board』もう浸透されているんですか?
freeeは使い始めたばかりですが、boardは導入から1年ほどで結構使いこなせるようになってきました。現社長と営業担当者が主に利用しています。今後、この2つのサービスをAPI連携させて、見積、購買から請求までの情報入力を効率化したいと考えています。」
 
 
🗞経理はお母様が担当されているとのことですが、クラウドサービス導入以前はどのように請求書を発行していたのでしょうか?
請求書発行用のPCを長年利用していました。(参考:事務コン
事務所にいなければ請求書を発行することができなかったので、今後の働き方や利便性を考慮し、クラウドサービスへの移行を決断しました。」
 

DX推進者として見据える将来

🗞様々なツールやDXの情報は主にどういったところから収集されているんでしょうか?
FacebookやTwitterなどのSNSが多いですね。前職でつながった方々や中小企業の後継者の方などの投稿を見て情報収集しています。あとは、雑誌Forbes JAPANなども中小企業向けの情報が掲載されていることが多いのでチェックしています。」
 
🗞奥野さんの数々の変革について社員の皆様はどういった反応でしたか?
担当者個々に説明して、一緒に導入、運用してきたので、納得してもらいながら進めてこれたと思います。クラウド請求書ソフトの導入のときには、実際に半年分の売上などの数値データを入力し、顧客別売上高、事業別売上比率などが自動集計できる機能を実演し、メリットを感じてもらえるようにしました。導入後の操作方法も、そのままでは使いこなすのが難しそうだったので、実務の流れに沿った30ページほどのマニュアルを作成しました。今ではマニュアルが無くても運用できていると思います。」
 
🗞ITツールなどの導入で奥野さんが狙っている変化はどんなことでしょうか?
情報共有や交換が活発になることを狙っています。まだまだこれからですが、使いこなして、様々な情報がもっと社内で共有されるようにしたいです。」
 
 
🗞なるほど。スタッフの教育や技術の継承に関して取り組みたいことなどはありますか?
「直近では、現在ある技術を言語化・標準化しようとしています。これは日本とインドネシア共通の課題です。まずは私が先導してインドネシアで枠組みを作ってから、それを日本のスタッフとともに改善していく予定です。」
 
🗞こういったツールの導入や言語化など改革の発案は、奥野さんご自身ですか?
「そうですね。悩んでいた部分もありましたが、自分でも試したり、他社の事例を聞きながら進めていきました。」
 
🗞どういった悩みがあったのでしょうか?
「例えば、Google Workspaceのスプレッドシートは変更の自由度が高い反面、意図しない変更がされてしまうこともあるだろうと思っていました。かといって、業務上変更が頻繁にあるので、変更しづらいのも使いにくいんです。全ての条件を満たすことはできないとしても、できるだけ自分たちに合ったツールを使いたいと考えていた時に、仲良くしていただいている社長さんに相談しました。すると、その社長さんの会社でもスプレッドシートを使って営業案件の管理をしていると聞き勇気を貰い、導入を決意することができました。」

技術者に寄り添って支えながら ともに

🗞次期後継、DX推進者として将来に向けて考えていることなどはありますか?
「個人としては、毎日が居心地良く、ご機嫌に過ごせる中で未来があれば良いなと思っています。そのために、職場環境づくりはこれからも取り組んでいきたいです。
あと、仕事の楽しさって”世の中の足りない部分を埋めていく”というところにあると思うんです。私自身は作り手の最前線ではないですが、ものづくりのプロである技術者に寄り添いながら、支えていければハッピーだなと思います。」
 
🗞技術者に寄り添うというのは具体的にどういったことをお考えですか?
「たくさんありますが、技術者が形にしたものの価値を他の誰よりも理解して、多くの方々に認めてもらえるよう外部との関係性を築いたり、ものづくりに集中できる環境を整えたりというところに注力していきたいです。時には世の中に足りていないものは何か、埋めるにはどうしたら良いかを技術者と一緒に考えることも必要だと思っています。チャレンジしながら成長していきたいですね。」
 
🗞昭和製作所の技術者の方々にあらためてメッセージを届けるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?
ともに新しいことに取り組んでいきましょうという言葉ですかね。働く場所や会社に関わらず、自分の未来に選択肢が増えていくように自分をアップデートしていくことが大事だと思います。」
 
🗞奥野さんが大事にしていることはありますか?
リスペクトする気持ちを持って、目の前の人と真っ直ぐに向き合う人生を歩みたいと思っています。」
 
🗞今後の決意や抱負などあればお願いいたします。
「誰かと何かを作りだすことが好きなので、人とのつながりを大事にしていきたいです。それこそが財産だと思います。日本の皆様ともつながっていけたら嬉しいです。」
 
株式会社昭和製作所
所在地 兵庫県神戸市長田区菅原通6丁目3番地
代表取締役 奥野 成雄
 
〜🗞ものづくり新聞編集部より🗞〜
今回はインドネシアと日本をビデオ通話でつなぎながら、インタビューさせていただきました。インドネシアでの暮らしも充実されているようで、交通事情や街の様子も教えてくださいました。
日本とインドネシア、両工場の未来を見据え行動されている奥野さん。人とのつながりの中で、ともに作り上げていくことを大切にしているのが印象的でした。DX化に関しても、従業員みんなで一緒にやっていきたいという思いが根底にあったからこそ、諦めずに達成できたのではないでしょうか。
昭和製作所さんの取り組まれているDXにご興味のある方がおられましたら、編集部のご相談窓口までご連絡ください。現場の課題解決に悩んでいるという方もお気軽にご連絡ください。