【後編】お茶やみかんだけじゃない!初開催!ファクハク 静岡工場博覧会体験レポ
2023年01月17日 公開
はじめに
2023年11月17日(金)から11月19日(日)まで3日間開催された「ファクハク 静岡工場博覧会」は、(※以下ファクハクと記載します。)開催期間中、実際の工場を開放し、参加者が工場の現場に自ら足を運べる「ツアー型オープンファクトリー」です。
前編ではマグロを活用して肥料を製造する伊豆川飼料株式会社の工場見学、インタビューの様子についてお届けしました。後編は、衰退した清水瓦に新しい価値を生み出している長澤瓦商店株式会社の見学の様子や実行委員会の方へのインタビューをお届けします!
また、ものづくり新聞では、ファクハクの開催前に実行委員会の皆さんに取材をし、開催に至った背景やファクハクへの想いを別媒体のMONOistに掲載しております。記事は以下よりご覧下さい。
衰退した名産品 清水瓦でもう一度
編集部一行が次に目指したのは、清水瓦を扱う長澤瓦商店株式会社。1971年に創業した長澤瓦商店株式会社は、瓦屋根の施工事業を行う会社です。
静岡県清水市と言えば、お茶やみかんでも有名ですが、実は瓦の産地でもあります。国内における瓦の3大産地といえば愛知県の三州、島根県の石州、兵庫県の淡路と言われていますが、かつては静岡もこの3大産地に肩を並べるほどの瓦の産地でした。
しかし、「七夕豪雨」と言われる1949年7月7日から8日に発生した大型台風の影響で、集中豪雨に見舞われた静岡県は河川の決壊や氾濫が起こり、家の倒壊、浸水などを招く甚大な被害を受けました。清水瓦を焼くための窯は石窯だったこともあり、この水害で全滅したそうです。
復興を試みようとした方もいたそうですが、大量生産が主流だった当時、ひとつひとつ手作業で仕上げる清水瓦を復興することは大変困難で、衰退の一途を辿っていきました。現在は清水瓦を作る窯元はなく、さらに国内全体で瓦屋根自体が徐々に減少しているそうです。
その現実に危機感を抱き立ち上がったのが、長澤瓦商店。瓦屋根の施工事業の他に、新しい試みとして瓦アクセサリーや瓦小物などのプロダクト作りを始めました。
新しいプロダクト制作をメインで行うのは、鬼師(おにし)の長澤玲奈(ながさわれな)さん。今回は長澤玲奈さんと専務の長澤美奈子(ながさわみなこ)さんにお話を伺いました。
鬼師とは…鬼瓦を作る職人のこと。
ーーファクハクに参加したきっかけを教えてください。
美奈子さん:ファクハクの発起人でもある株式会社山崎製作所の代表取締役、山崎かおりさんから声をかけていただき、清水瓦の魅力を伝えたいと思って参加しました。
清水瓦の魅力を伝えるために、娘の玲奈の発案で3年前から清水瓦を使ったアクセサリー製作を行っています。当時は外注で清水瓦をビーズにしてもらい、レジンを用いて製作していたのですが、玲奈は「瓦がなかったら可愛い…」と言っていて、迷走している様子でした。
ーーその後、どのようにして事業が形になっていったのですか?
美奈子さん:瓦をメインとして作らないと意味がない、自分で瓦に触れれば幅が広がるのではないか?と娘の玲奈自身も気付いたようで、愛知県の鬼師の元へ3年間の修行に行きました。修行を経て、事業がスタートしたのは今年の1月からです。その後に6月の豪雨の際に床が浸水してしまって、この事務所は8月に完成したばかりなんです。それまでこの場所は、駐車場の一画でした。事務所が完成する前は駐車場の端で小物の製作を細々と行っていました。
ーー今年から事業スタートで、ここは駐車場だったんですか!?それからの準備となると…大変ではありませんでしたか?
美奈子さん:そうなんです。気づいたら開催日も迫っていて、展示の方法やワークショップを考えたのは今年の9月頃でした。本格的に準備がスタートしたのは先月からです。
ーーワークショップの準備はどのようにされたのですか?
美奈子さん:所要時間は1時間〜2時間くらいに設定して、清水瓦に触れるアロマストーンづくりを企画したのですが、誰でも参加できるように身近な方にも協力していただきながら試行錯誤を繰り返しました。はじめは菊をモチーフにしていたのですが、花びらの形が難しいため、見本を用意したり、初級、中級、上級のようにレベルに応じたモチーフを作ってみたりしました。
ーー私は不器用なのでレベルが分かれているのは嬉しいです。実際体験された方の反応はいかがでしたか?
美奈子さん:知名度がまだなく、枠がなかなか埋まらなかったのですが、体験された方の中にはリピーターがすでにいて、来て体験してもらえたら「楽しい!」と感じていただけることが分かりました。
ーーファクハクにどんな期待をもたれていますか?
玲奈さん:職人を知ってもらう、瓦を扱う産業や瓦を知る機会になってほしいと思います。他の会社とも連携しながら、みんなで地域産業を盛り上げるためのきっかけとなれば良いですね。
ーー今回ファクハクを機に知った、繋がることのできた企業はありますか?
玲奈さん:鋳物を扱う栗田産業株式会社さんです。空間作りがとにかくすごくて。ワークショップの企画段階の時に実際に行って拝見させていただき、どのように魅せるか勉強ができました。施工会社だとものづくりをされている方となかなか繋がることができなかったので、これをきっかけに知ることができてよかったです。
ーーファクハクに参加してみてどうでしたか?
玲奈さん:今回参加したことで、自分たちの中で瓦の魅力やどこにプライドを持っているのか整理して言葉にすることができました。清水瓦の魅力を地元でも知らない人がいるので、魅力を伝えて、清水の誇りを感じてほしいです。今までは焼成(しょうせい)の工程を愛知で修行していた師匠の元に頼んでいましたが、今後は敷地内に釜を建てる予定なので、清水瓦の魅力をさらに伝えることができると思っています。
焼成とは…原料を加熱して変化させること。瓦を窯に入れて高温で焼き上げる工程のことを指します。
こちらは清水瓦で作られたアロマストーンです。水を吸って揮発される瓦の特徴を活かして作られたアロマストーンは、アロマを垂らすと徐々に染み込み長く香りを楽しめるそうです。
また、清水瓦の特徴は「いぶし瓦」であること。粘土が高い地層から選び抜かれた土を焼成の工程で「燻化(くんか)」と呼ばれる高温の無酸素状態にすることで、炭の色が染み込み、素朴ないぶし銀に自然と着色されるそうです。
取材をしながらお二人がつけているピアスが素敵で気になっていました。一つ一つ手作業で作られたアクセサリーや小物は一つとして同じものはありません。光があたると銀色にキラキラと光って、最初からラメが入っているように耳元を明るく感じさせます。
柱には「小鬼のちぃちゃん」マグネットが飾られていました。繊細な作りで、富士山を持っていたり、笑っていたりと可愛いです。
お二人の話を聞いて、ますます清水瓦プロダクトに魅せられた私たち。次の予定ギリギリまで店内の商品を吟味し、それぞれのお気に入りを購入して次の目的地に向かいました。
実行委員会の方と初対面
長澤瓦商店を後にして編集部一行が最後に向かったのは、ファクハク総合案内所があるホリノテラスです。ホリノテラスでは、これまでオンラインで取材にご協力いただいていた実行委員を務める阪口せりな(さかぐちせりな)さんと、同じく実行委員を務めるナガハシ印刷株式会社代表取締役社長 長橋健太郎(ながはしけんたろう)さんにお会いできました。
ーーお会いできて嬉しいです!ファクハクとっても楽しいです。タペストリーも素敵ですね。
阪口さん:ありがとうございます。タペストリー作りも直前にやりました。チラシの作成とか、パンフレットとか販促物の要望を長橋さんがどんどんキャッチしてくれて、バタバタと準備をしている中で唯一計画通りに進めていただき感謝しています。
ーーデザインから制作までお疲れ様です。長橋さんは今回ファクハクで工夫されたことはありますか?
長橋さん:弊社は明日からお客様を迎えるのですが、静岡鉄道の社員の方など外部の客観的な意見もいただいて社内の配置を変えています。社内での意識も変わり、見方が変わってきているように感じています。ファクハクを通してやりがいを見出してくれたら嬉しいです。
ーー準備期間で印象に残ったことはありますか?
長橋さん:ファクハクに参加する企業向けに説明会を実施した際に、各企業でどんなことをしているのか自社紹介をスライドを使ってプレゼンテーションをしてもらいました。実は静岡No. 1だったり、シェア率No. 1だったり、同じ静岡県内の企業のことなのに知らないこともたくさんあって、参加企業同士から「おぉ…!」と思わず声が上がっている様子が印象的でした。
ーー今回初開催で実施してみていかがでしたか?
阪口さん:前日で予約は7割以上が埋まっていました。平日のツアーも開催したのですが予約が埋まらず難しい部分もありました。大きなトラブルはありませんでしたが、プロジェクトの全体像が見えていなくて、「やばい!タペストリーも明日入稿だ!」「チラシは何部印刷を必要!?」という感じでバタバタしていましが、嬉しい悲鳴でもありました。まだまだ知らない企業もたくさんあるので、来年に向けて参加企業を増やしていきたいです。
ーー印象に残っていることはありますか?
阪口さん:企業さんによっては更新が止まっていたSNSが動き出したことです。参加企業同士で情報をリツイートしたり、ファクハクの情報を発信したり。自分ごととして発信してくれたのが嬉しかったです。あとは、ありがたいことに協力してくださる方が多くて。自分では手が届かないところを、他の企業の方が話を通してくれていて、静岡鉄道さんや静岡JAの方々に入っていただけました。明日は知り合いのカメラマンも来てくれるんです。あとは、初めての説明会で自社のプレゼン紹介をした時に、「今度行ってみるね!」といった声が上がったのが印象的でした。
ーーファクハクのシンボルマークには、参加している様々な企業同士が繋がってほしいという想いが込められていたと思うのですが、お話を聞いていると込められた想いの通りになっているように感じます。
阪口さん:確かに!想いが形になっていました。参加した皆さんも同じ想いだったら嬉しいですね。
編集後記
ものづくり編集部では、2023年はオープンファクトリーに注目し、各地のオープンファクトリーの取材を実施してきました。その中で、ファクハクはSNSでご縁があり、初開催されると聞いて7月から取材のご協力をいただきました。
オンラインでの取材には実行委員全員が参加され、当初から「1社でできないこともみんなで力を合わせればムーブメントが起きる」と口を揃えておっしゃっていたことが印象に残っています。今回取材をさせていただいた参加企業側からも同じ言葉がでてきたことに驚きました。実行委員会だけでなく、参加企業側も同じ想いを抱き、方向性が統一しているイベントはなかなか無いと思っています。
ファクハク開催後に長橋健太郎さんから、参加された方が自社文房具のファンで愛用している商品ができるまでの工程が見れて喜んでいただけたことや、SNSの投稿で県外のファンから「いつか絶対行く!」とつぶやかれていて嬉しかったと感想をいただきました。文面を読みながら私まで嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
これまで知らない企業と一緒にイベントを作り上げて業務でのお付き合い以上の繋がりを得たり、見えてこないお客様から直接言葉をいただけたりできるのはオープンファクトリーならではだと思います。また自身の知見も広がり、ワクワク続きの1日でした。実行委員会をはじめ、このイベントに関わる全ての方に心から感謝申し上げます。
(ものづくり新聞 特派員 P)