世界初「さくらんぼスタンド」を開発・製造!:京浜パネル工業株式会社(山形県村山市)
2023年06月07日 公開
「さくらんぼスタンド」と聞いて、みなさんはどのようなものを思い浮かべますか?
2023年6月1日からクラウドファンディングを開始したこの商品は、山形県の名産品である「さくらんぼを飾る」という発想で生み出された世界初(関係者調べ)のインテリアオブジェです。プロダクト名は「bost」です。
スタンドに食品サンプル大手であるイワサキ・ビーアイさん製作の「さくらんぼフィギュア」が付属するそうです。さくらんぼが旬の時期は本物と飾り、それ以外の季節はこちらのフィギュアを飾ることで、さくらんぼの美しさが一年中楽しめます。
「bost」は、ステンレス製の精密板金加工技術により、「さくらんぼを美しく讃える」というコンセプトを実現しています。レーザーで切断されたステンレス板を、曲げと溶接で立体化させ、塗装はマットなブラックで装飾しています。板金加工も、塗装加工も、職人の手作業により一品ずつ丁寧に作られています。
この製品を企画・製造しているのが山形県村山市にある京浜パネル工業株式会社山形工場です。京浜パネル工業は、設計・板金・塗装・組立までの一貫生産を行う板金加工メーカーです。山形県愛を感じるこの製品はどんな人が企画したのでしょうか?
代表取締役社長の望月晃さんにお話をお聞きしました。
社長自らが新製品を企画
ーーどういう経緯でこの製品を企画されたのでしょうか?
望月さん:ものづくりの企業として、山形の良さを伝えるものづくりができないかという想いがありました。また、山形県村山市の地域のみなさんに「面白いことをやっている会社」だと見て欲しいというのもありました。
ーー山形県への想いを伝える目的ですね。
望月さん:はい、これまで私たちの会社は山形の皆さんに支えられてきました。その愛と感謝を形にするために、この製品を企画しました。
ーーそれで「さくらんぼスタンド」なのですね?
望月さん:山形の良さをアピールしつつ、世の中にないものを生み出したいと思いました。山形と言えば、さくらんぼですが、さくらんぼをディスプレイするための専用のスタンドは、誰も考えたことはないだろう、と思い、この企画にしました。
ーー社長である望月さんご自身で企画されたのですか?
望月さん:そうです。私が企画して、私自身でデザインも行いました。しかし、製造に関しては京浜パネル工業の強みである板金、溶接、塗装の職人の技を活かしています。
板金加工機械メーカーの営業からアトツギに
ーー望月さんは3代目のアトツギでいらっしゃるのですよね?
望月さん:そうです。2014年に家業に入社し、2019年に社長に就任しました。
ーー就任前はどのようなお仕事をされていたのですか?そしてどうして家業に入られたのですか?
望月さん:アマダという板金加工機械メーカーに8年ほど勤務し、最後の5年間は営業戦略を考える部署にいました。当時、板金加工を担う国内企業の数は年々減少し、大量生産する部品は中国などの海外にシフトしたため、小ロットの加工だけが日本に残っているという状況で日本の中小企業はどこも経営スタイルを変えていくのに苦労していました。そんな厳しい時代環境の中で、京浜パネル工業の業績もあまり良くないようでしたが、2013年に祖父が亡くなり、葬儀の会場で従業員のみんなの顔を見た瞬間、これは戻らなければと思いました。
ーー家業に入られてからどのようなことに取り組まれたのですか?
望月さん:経理を担当しました。元々、会社の経営にとって経理は大切だと聞いていましたので、アマダ時代から勉強をしていました。家業に入ってからは経理として数字を見ながら、製造現場の改革を進めました。具体的には現場のITを強化し、Excelを使って細かな作業の自動化を行いました。マクロなども自分で作っていました。
ーー社長ご自身がExcelマクロを組んでいたのですね?
望月さん:そうです。工程管理や予定管理などのExcelを自動化しました。その結果、現場の方々はすぐに使ってくれました。今はそれ無しでの業務には戻れなくなっていると思います。
ーーその他にも改革に取り組まれたのですか?
望月さん:設備が古くなっていたので、新しいレーザー・タレパン複合加工機の導入を進めました。当時、前社長は、業績が良くなかったこともあり高額な設備投資に対して積極的になれなかったようですが、資金調達や導入後の事業計画も私のほうで考えて、複合機導入の陣頭指揮をとりました。
(編集部注:タレパンとは「タレットパンチプレス」の略で、アルミやステンレスなどの金属板を打ち抜く加工方法です。)
社長に就任して取り組んだ営業改革
ーー社長に就任されて、取り組まれたのはどのようなことですか?
望月さん:社長になって最初に取り組んだのは営業の改革です。私が社長になる前は、営業4人の仕事のうち新規顧客獲得に動く仕事の割合がほぼゼロで、営業を新規顧客が獲得できる組織に変えていく必要がありました。
ーー新規顧客獲得のためにどのようなことをされたのでしょうか?
望月さん:まず、私が営業部長を兼任しました。その上で、うちの営業は元々自社PRをプレゼンすること自体は苦手ではなかったので、営業がプレゼンする機会を増やす取り組みをいくつか実施しました。
ーー結果は出たのですか?
望月さん:営業の改革を始めて3年になりますが、今では新規の問い合わせは私が社長に就任する前の3倍くらいになりました。
ーーそれはすごいですね。
望月さん:でもまだ順調とは言えません。これからです。
本業を固めつつ新しいことにも取り組んでいく
ーー本業以外にも取り組んでいることがあると聞きました。
望月さん:本業にちゃんと取り組んでいることが前提ですが、新しい取り組みとして、動画制作の会社を設立しました。株式会社THIRD SPACE PRODUCTIONです。映像作家のユイ・メンドーザさんをチーフ・ディレクターにお迎えしました。
ーーどのような背景から設立されたのでしょうか?
望月さん:さくらんぼスタンドと同じですが、東北・山形の良さをもっと発信していきたいという気持ちがあります。山形や東北で頑張っている企業の動画制作をお手伝いすることで、山形や東北の素晴らしさを世界に向けてアピールしたいと考えています。
ーーメンドーザさんの山形紹介動画を拝見しましたが、非常に美しい映像でした。
Reflections: A Short Film https://youtu.be/0ws5BA1RNkA(マレーシアNITIIN国際映画祭「インターナショナルショートフィルム最優秀賞」および「ショートフィルム部門 ベストディレクター賞」受賞作品)
山形をもっと盛り上げていきたい
ーー今後の展望をお聞かせください。
望月さん:自社だけでやれることは限りがあります。働き方改革の中で、社員に無理な長時間労働を強いて利益を出すような経営手法は、今はもう通用しません。これからは山形中心に東北地域で横のつながりを深めて、みなさんと一緒に事業を拡大していきたいと考えています。
ーーそのために取り組んでいることはありますか?
望月さん:できる限り同年代の社長の方々と交流し、悩みを共有したいです。そしてみなさんと一緒に東北や山形を盛り上げていきたいです。
編集後記
インタビューの後、工場を見学させていただきました。大型の複合加工機からプレス機械、溶接工程、塗装工場など多数の工程を自社でお持ちでした。
取材を終えて感じたのは、単に一社だけが良くなろう、生き残ろうということではなく、地域や日本の企業が一体となって、大きな視野で考えていかなければならない、ということでした。
(ものづくり新聞 編集長 伊藤)
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