「町工場の皆さんに、ちょっと聞いてほしい!」 開発・流通担当者たちの切なる願いとは!?
2023年02月22日 公開
大手量販店でPB商品開発を担当する有末航太朗(ありすえ こうたろう)さんは、悩んでいました。それは、大小さまざまな企業が一堂に会する、展示会での出来事。
これまで数多くの展示会に参加してきた有末さんですが、実はそのたびにひとつの疑問を感じていました。
もしかしたら、多くの方が一度は経験した事があるかもしれないこの問題、その切実なる思いとは…?
Case1: 展示会で町工場の人と名刺交換をしても連絡がもらえない!
そう語る有末さんは、町工場が出展するあちこちの展示会に毎回顔を出し、一緒に製品開発をしてくれる町工場を探しているそうです。しかし、実際には製造企業・町工場との繋がりがなかなか持てず、苦心しているのだとか。今回は、その事情を詳しく伺いました。
ーー展示ブースに入ると、たいていスタッフの方が声をかけてきますよね?
有末さん:それが、展示ブースに足を踏み入れても、内輪でお話されていることが多く、私に声をかけてもらえないのです。
ーーでも、さすがに大手量販店の名刺を出せば、みなさん関心をお持ちになりますよね?
有末さん:関心は持っていただけるのですが、名刺をお渡しして、ご連絡ください、とお伝えしても、その後フォローのご連絡をいただけないこともありました。こちら視点だと、出展の意図や繋がりたい企業などはわからないので、プロジェクトベースで具体的な案件がないとお声をかけづらい部分もあります。
ーーメールもないのですか?
有末さん:メールもいただけることは少ないですね。
ーー関心がある人同士がスムーズに繋がれる仕組みがあるといいですね。さて、最近では独自の製品を開発されている町工場も増えてきているのですが、製品の提案はありますか?
有末さん:ありました。しかし、消費者目線で考えた時に、この製品をこの価格で売るのは正直難しい、という製品が多い印象です。技術そのものは優れているので、消費者目線で企画すればもっといいものはできる気がするのですが。製品として完成する前に、もっと早く提案していただければと思いました。小売店や量販店は消費者に近い立場にありますので、一緒に企画すればもっと消費者目線の商品にできると思うのです。
有末さんは、大学卒業後、大手製造卸に就職し、生活家電の営業を経験したのちに、製品開発企画の部署に異動しました。家電開発のマネージメントを5年間経験されたそうです。調理家電、季節家電といった製品を世に送り出してきた有末さん。この会社はファブレスなので、自社工場はありません。製品のほとんどを中国のOEMメーカーに製造委託してきたそうです。
一方、大手量販店は、自社PB品(プライベートブランド品)を開発するチームを新設し、自社ブランドの家電を企画しようとしています。有末さんは大手製造卸での家電開発の経験を買われ、大手量販店に転職しました。
ーー大手量販店がPB品開発に取り組む背景を教えてください。
有末さん:家電量販店は自社店舗網が強みの一つなので、自社店舗に来店してもらうための施策をいろいろ打っているのですが、一番有効なのが「この店舗でしか買えない、魅力的な商品があること」なのです。
ーーでも、量販店はいままで自社独自の製品は開発少なかったのでしょうか?
有末さん:これまでもありましたが強化していきたいと考えている企業が増えていると感じます。そのため、最近では各社が外部から人材を採用したり、チームを新設したりする動きが増えていますね。
では、製造卸や量販店のPB品開発では、どうやって新しい製品のアイデアを出しているのでしょうか?
ファブレスの商品企画において、ものづくりの人たちとの対話は重要
ーーポイントは消費者ニーズを把握するところだと思いますが、どのように消費者ニーズを獲得しているのでしょうか?
有末さん:たとえば、小売店や量販店にはポイントカードを初めとする大量の購買データがあります。どの年代・性別の人に何が売れているのか、この商品を購入した人は他にどのような商品を購入しているのか、といった膨大なデータがあります。
ーーそれらのデータから商品のアイデアを出していくのでしょうか?
有末さん:いえ、データは裏付けにはなりますが、新しいアイデアは別の方法が必要です。本当はデプスインタビューといった定性的なマーケティング調査を行った上で企画したほうがいいと思うのですが、当然費用がかかります。SNSなどを経由して定性的な情報を得ることもあります。
ーー結構地道な方法ですね。その他に取り組んでいることはありますか?
有末さん:私はできる限りいろんな方々とお会いして会話することで、アイデアを出しています。誰と取り組むのか、そこが非常に重要です。メーカーやものづくりの方々と会話できると、いろんなアイデアが出てきます。このコミュニケーションも非常に重要です。
ーーすると、最初の話題に戻りますが、ものづくりの方々とコンタクトするのが難しいと。
有末さん:そうなんです。展示会に行ってもなかなかディスカッションできる方とお会いできません。ぜひ、一緒にディスカッションできる方がおられましたらご連絡をいただければと思います。
Case2:もっと新しい商品を企画して新しい可能性を探りたい!
そう語るのは、大手製造卸で営業・商品企画として勤務する井上雄貴(いのうえ ゆうき)さん。
フライパンを始めとした家中で使う家庭用品を中心に小売店・量販店・ホームセンターなどに営業と商品企画をされています。
井上さんの会社はファブレスメーカーとして広い販路を持っており、井上さんの企画した商品がいろいろな販路を経由して市場に出ています。
ーー営業ですので、やはり売上が目標なんですよね。
井上さん:もちろんです。しかし、既存に流通している商品を既存の小売店などに販売するだけだと、売上予算の達成は難しい部分はあります。
ーーどうやって達成するのですか?
井上さん:やはり新商品の企画です。小売店のバイヤーやPB事業部の人たちと一緒に商品企画をおこなったり、他業界、例えば芸能事務所とタイアップし、新たな切り口での商品企画を行ったりし新たな可能性を探っています。そういったことを常にやっていかないと売上目標は達成できません。
ーー井上さんは営業なのに、商品企画もしているのですか?
井上さん:はい、私も企画しています。小売店に置いてもらう可能性がある商品企画であれば、会社に企画を申請して製品作りができます。
ーー新製品の企画はどのような点が考慮されるのですか?
井上さん:もちろん、新規性や面白さなどが重要ですが、利益率が取れていること、ROI(Return On Investment:投資収益率)が出ていること、MOQ(最小発注ロット数)が大きすぎないこと、などのポイントがあります。
ーーこれまでは製品の製造は中国企業とご一緒されることが多かったのでしょうか?
井上さん:はい、これまでは中国に製造をお願いしていることが多かったです。しかしこれからは日本の製造業の皆さんともご一緒したいと考えています。
新製品企画は難しいですが、他社分析やバイヤーなどへのヒアリングを行い成功に近づける努力をしています!
ーーでも、いつも新製品がうまくいくとは限りませんよね?
井上さん:もちろんそうです。正直あたりはずれもあります。しかし、新しいものを出すわけですから他社分析やバイヤーへのヒアリングなど、情報を収集しながら失敗しない努力を重ねています。
ーー在庫が残ったらどうするのですか?
井上さん:私たちの場合は、多くの小売店や量販店など多様な販売先がありますので、A社経由で売れない場合でもB社経由で販売するといった方法を取ることができます。
ーー有末さんにお伺いしますが、大手量販店では在庫が過多になった場合、どのように捌くのでしょうか?
有末さん:PB品の場合はそうはいきません。そのため、数量や価格に対して厳しい判断をする必要がありますね。自社でしか売れませんのでもしも売れない場合には在庫が残ることになります。特に、家電製品は最小発注ロット数が大きい場合が多いため、リスクも大きくなります。
ーーそれでも失敗することはありますよね?
有末さん:はい、あります。しかし、次につながるような「いい失敗」にする必要があります。どんな仮説をもとに製品化をしたのかを踏まえて、売れなかった理由を検証できるようなものの作り方が求められます。
ーー町工場の方々と製品を企画する場合、失敗しないためには、どのように進めればよいでしょうか?
有末さん:小売店や量販店は消費者と近い立場で、日頃からシビアな分析を重ねています。町工場のみなさんはものづくりの技術に長けておられます。両者の長所を混じり合わせることで無駄なく、現実的な計画を立てていけると考えています。町工場の方々で自社商品の販売をうまくやっている方の中には、最初は小売店と一緒にやる人が多いように思います。そこで成功体験を作って次に繋げていってもらえればと思います。
日本製品を海外へ。日本企業と組むメリット
ーーこれまでは中国に製造を依頼されていると思いますが、中国と比べて日本の製造業に依頼する場合の良さを教えてください。
有末さん:日本語で直接コミュニケーションできる、相手の場所が近ければその場で物を見ながら話すことができる、といった大きなメリットがあります。しかし、そのメリット以上に、できることなら日本の製造業の皆さんと一緒にものづくりしたいと思っています。
ーーそれはどうしてですか?
有末さん:ちょっと大きな話になりますが、日本という国で見た場合、今後人口減が決定的になっているため、富を得続けるためには、外貨を獲得していかなければなりません。量販店には海外からのお客様も多く来られますので、まずは海外からの観光客の方々に日本のものを購入していただければと思います。そのためには日本の製造業の皆さんと販売・小売側が一緒になってものづくりを進めていくことが必要だと思っています。
ーーそのためにどんなことを進めれば良いと思いますか?
有末さん:以前に、Apple社のスティーブ・ジョブズさんは「どこの国の製品が良いのか」という話題の際に、日本の職人に高い敬意を払っていたと言われています。(参考サイト)それと同時に、日本企業はマーケティングへ力を入れないため、販売する力は十分でないというコメントも残しています。「技術x販売促進」にみんなで取り組めば、もっと魅力的な製品が作れると思っています。
もっと直接会ってお話ししましょう!
ーー読者の中小製造業の皆さんに一言お願いします。
有末さん:是非直接お会いして、対話の機会を増やしましょう!市場やマーケットにニーズはたくさんあります。それらのニーズに合った製品をもっと開発していきましょう。製造業の皆さんにはシャイな方が多い印象ですが、いったんそんな感情は忘れて、ぜひ一緒にお話しさせいただければと思っています。自分たちだけで製品企画や販売をやらなければ、と考えず、その分野に強い人と話すことで、補いあっていきたいと思います。
井上さん:私も日本の製造業のみなさんともっと一緒にやっていきたいと考えています。しかし、一緒に企画した製品であったとしても、市場分析や検討の結果、必ずしも商品化されるわけではありません。そのため、ご相談の時間が町工場の方の貴重な時間を奪ってしまう可能性があります。そのリスクはご理解いただいたうえで、日本の製造業のみなさんとフラットにお話しできる機会が作れれば、よい新製品を市場に出していけると思います。
編集後記
この取材の最後に、「町工場の方々と小売店の皆さんで交流できるイベントができたらいいのではないか」というアイデアが出ました。今後ものづくり新聞編集部でイベントを企画することになりました。参加したいという方は編集部までご連絡ください。(企画内容はものづくり新聞のTwitterアカウントで告知いたしますので、是非フォローください)
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