【山形県内初】米沢の伝統に触れる〜360°よねざわオープンファクトリーイベントレポ✏️~
2023年10月25日 公開
山形県米沢市で2023年9月15日、16日の2日間にわたり開催された「360°よねざわオープンファクトリー」を訪問してきました!
「360°よねざわオープンファクトリー」は「360°見渡す限り美しい山々に囲まれた米沢で風土の美しさとともに、米沢のものづくりの世界観をぐるっと見渡し、実際に触れていただきたい。」そんな想いを込められた”地域一体型オープンファクトリー”です。
当日は米沢織関連企業をはじめ、酒蔵や飲食店など20社が出展し、伝統的なものづくり現場公開の他、各社の見学とものづくり体験が実施されました。
山形県米沢市ってどんな街?
米沢市は山形県の最南端に位置し、福島県と県境を接しています。
冬は寒さが厳しく、特別豪雪地帯に指定されており、年間累計積雪深は10mに達することがあります。
また、上杉家縁の名所・旧跡・文化財などが多く残っており、「上杉の城下町・米沢」としても親しまれています。
米沢牛や米沢ラーメンなど食においても有名な米沢市ですが、米沢織という織物産業があり、現在は約25社あまりのメーカーが織物製品を製造しています。米沢織の特徴は、天然繊維の絹糸を紅花、藍、くちなし、ざくろ等の自然の染料で染め上げる「草木染」です。また絹を原料とした袴地は、全国の90%以上のシェアを占めています。
参考資料:米沢市公式ホームページ
米沢織の歴史
ここで今回メインに訪問してきた米沢織の歴史についてご紹介します。
慶長5年、関ヶ原の合戦で豊臣方(西軍)についた上杉軍は、敗戦により領地がおよそ1/4となってしまいました。藩主上杉景勝公の側近だった直江兼続は、藩の収益の増大をはかるためにさまざまな政策を実行し、そのひとつが桑、青苧(あおそ)、紅花などの換金植物の栽培でした
それから約200年後に第9代米沢藩主上杉治憲(通称:鷹山公)は、経済的に苦しい状況にあった藩財政を立て直すために武家の婦女子の内職として、機織りを習得させたのが米沢織業の発祥とされています。先進地だった新潟県の小千谷より技術者を招き「縮布(ちぢみふ)」の生産に成功し、以前からあった青苧(あおそ:麻を原料として作る)という素材を原料とした麻織物から、置賜地方の養蚕業を基礎とした絹織物製造に移行し、出羽の米沢織として全国に名声を馳せることになりました。
参考資料:米沢繊維協議会公式ホームページ
その後、戦後の洋装化に伴い、昭和30年頃より合化繊糸を使用した先染婦人服地が主流となると、米沢産地は呉服部門と服地部門の両面産地として発展してきました。
参考資料:米沢繊維協議会公式ホームページ
早速会場へ!
はじめに総合受付会場の米織会館へ!米沢織物の歴史資料の展示や物販、さらには手織り体験焼き物の着付けなどもでき、米沢織物の歴史に触れられる資料館です。
パンフレットとリストバンドをいただいてきました!これが参加者の目印になり会場となる各企業や工場、工房に入ることができます。ロゴマークともお揃いです。
今回のオープンファクトリーは「ツアー型*」のスタイルだったため、気になる企業をピックアップして行ってきました。
ツアー型とは…参画企業が自社の工場(工房)を開放して、来場者が自ら出展企業を周遊するオープンファクトリーのスタイルです。
1件目は近賢織物(こんけんおりもの)有限会社へ!
近賢織物さんは、1860年に創業以来、100年以上米沢の地で機(はた)を織り続け、呉服の反物生地を製織しています。普段は着物地、帯地の製造販売、和装小物の製造販売などを行っており、お客様が直接会社内に入ることは今回が初めての試みだったそうです。
まず目に入ったのはこちら!色とりどりの小物たちです。
帯地で作ったバッグや名刺入れ、ポーチなどの展示と販売が行われていました。これまでは反物の倉庫だったところを今回のオープンファクトリーのために改修工事をしたそう。
お客様用に見せるために工事に踏み切ったことで、会社内の5S活動にも繋がったそうです。今後もふらりと立ち寄った方や興味のある方に見ていただけるようにしていくとのことでした!
そして奥の工場からは「ガション!ガション!」と機械の音が聞こえてきます。機織りの知識は「鶴の恩返し」でしか知らなかったため、「ここは行くしかないな!」ってコトで製造工程ツアーに参加させていただきました!
工場内は工程ごと部屋が分かれていました。はじめに「ガラガラ」と木枠が回る機械の部屋にご案内いただきました。
糸切りばさみを片手に真剣な面持ちでされているのは、染色されたカセ状*の糸を糸枠に巻いていく「糸返し」の工程です。
一本の糸は髪の毛よりも細く、天候や湿度、摩擦によって糸の状態は変化するため、束の状態から糸枠に巻くには、精神を落ち着かせ集中力を高めて挑まなけれければなりません。この工程がうまくいかなければ、その後の工程に影響が出てしまう重要な工程です。
カセ状とは…一本の長い糸を巻いて束にしてあるもののことです。一般的にはしつけ糸や刺繍糸がカセ状で売られています。
次にご案内いただいたのは機織りの工程の部屋です。はじめに「ガション、ガション!」と聞こえていた機械の正体です。スイッチを入れると機械が上下と前後に動き糸が織られていきます。折り方はドビー織り機*とジャガード織り機*の2つの製法で製造をされているそうです。
ドビー織り機とジャガード織り機の違い
・開口装置(たて糸を上下させる装置)の種類が異なります。
・ドビー織り機:綜絖枠ごとたて糸を上下させる装置でシンプルな柄を制作できます。(綜絖枠はたて糸を開口させよこ糸が通る場所をつくる役割をしています。)
・ジャガード織り機:たて糸一本一本を自由に上下できることで複雑な模様を織るのに適しています。
こちらは紋紙(もんし)と呼ばれる穴の開いた厚紙です。
紋紙はデザインのデータが詰まっており、織物が設計される重要な役割をしています。紋紙の穴は織り機がどこに糸を通すかを示しており、紋紙でたて糸とよこ糸をコントロールすることによって様々な紋様を織り出していきます。
いくつもの紋紙を連結することでより複雑な紋様が浮かび上がってきます。
次々と織られて柄が浮かび上がってきています。これを繰り返して一つの反物生地ができます。
近賢織物さんのツアーに参加させていただき、織物の知識が深まりました!
また、近賢織物5代目社長、近藤哲夫(こんどうてつお)さんは今回のオープンファクトリーの実行委員会委員長をされています。そんな近藤さんに、初めてのオープンファクトリーについて感想を伺いしました。
ーー米沢でオープンファクトリーを実施するきっかけはあったのですか?
市役所に別件で用事があって行った時に、担当者の方からオープンファクトリーイベントについて話を聞いて、「面白そう!やろう!」と思い2022年の10月に始動しました。他に協力してくれそうなメンバーに声をかけて、実行委員会メンバーを発足し、1月に米沢繊維協議会の新年会で告知をしました。そこから内容を決めて、話が実際にまとまったのは2023年の5月頃でした。
ーー結構準備期間が短いと感じたのですが、企画内容はどのように決めていったのですか?
米沢市を拠点としている観光地域まちづくり法人、プラットヨネザワ株式会社の宮嶌浩聡(みやじまひろあき)さんの主導の元、内容を決めていきました。また、それぞれメンバーが集まって意見交換会をしたり、LINEグループやSlackで話し合いをすることもありますね。LINEもSlackもこれまで触れてこなかったので不慣れながらも少しづつ覚えながら使っています。
ーー初めての試みが多く大変な中で、今回のオープンファクトリーの狙いやポイントを教えて下さい!
米沢を好きになるファンづくりがしたいと思っています。ゆくゆくは市外県外の方々にもファンになってもらいたいですが、その第一歩として今回は地元の方々に知ってもらいたいと考え、米沢市内の方々をメインターゲットとして来場者1,000人を目標にしてきました。インナーブランディングを考える機会にもなり、BtoCの勉強や社内のレベルアップにも繋げたいと思っていました。プラットヨネザワの宮嶌さんをはじめ、山田立(やまだりつ)さん(燕三条工場の祭典実行委員長)からもアドバイスをいただきながら準備を重ねていました。
ーー実際にイベントを開催してみて近藤さんご自身の手ごたえはいかがですか?
思っていたよりもお客様が来てくれた!という印象です。
平日開催はお客様の休みが合わないため避けた方がいいとアドバイスをいただいていましたが、企業によっては平日のみ参加可能というところもあって悩みました。結果的に、今回は平日、休日のどちらも開催ということにして、自社では休みをずらして通常出勤の扱いにしました。平日に開催したことで山形県立米沢興譲館高等学校の生徒さんが約100名ほど来てくれて、休日は一般の方で賑わいました。双方にメリットがあることが分かり、多くの方に楽しんでいただけてよかったと思いましたね。
準備は大変でしたが、来てくれたお客さんからこれはどうなってるの?凄い!といった声も上がって嬉しかったです!次回以降も続ける取り組みにしていきます!
ーーありがとうございました!次回も楽しみにしています!ところでワークショップ体験ができると伺ったのですが…
ぜひぜひ!せっかくなので体験していって下さい!
近賢織物ワークショップ体験”織り機を使ってオリジナルティーマット製作”
最後にワークショップ体験に参加しました。今回体験させていただいのは、”織り機を使ってオリジナルティーマット製作”です。
はじめに色取りどりある糸の中から3種類選びます。私は緑系を選びました。
織り機に選んだ糸をセットしたらレバーを握ってスタート!すごいスピードで織られていきます。レバーは重量感があり、目の前で次々と紡がれていく様子は圧巻です!物差しでどのくらい織るかスタッフさんにサポートいただきながら糸の色を変えるタイミングで機械を止めます。良いタイミングで止める必要があるため、その瞬間は緊張感があり目が離せません。
だんだんと形が見えてきました。不器用なのではじめは不安でしたが、終始スタッフさんから「上手です!完璧です!」と褒めていただき、楽しく体験できました。
最後に織り機から切り離して体験は終了です。無事に出来上がってホッとしました。
スタッフさんに糸が解けないようにミシンで仕上げをしていただき完成です。
可愛い!自宅で大切に使います。
2件目は株式会社新田(にった)さんへ!
近賢織物さんを後にして、同じく米沢織物をされている株式会社新田さんにお伺いしました。
新田さんは、1884年に創業。3代目社長は紅花の復興に尽力し、4代目社長からは染めから織までの一貫生産化を進める改革をしました。「新田式括り染め」という独自手法による自然が生み出す柔らかくも豊かな色彩を持った織物が特徴です。
門をくぐると素敵なお庭が広がっており、奥から機織り機の音が聞こえてきます。新田さんはご自宅兼工房を構えており、イベントの際にはご自宅部分も含めて一般開放をされているそうです。
工房内を見学させていただきました!「染め」の作業をされていることもあり、色鮮やかな糸が並んでいます。
天井を見上げたらここにも綺麗な糸の束が!染めて間もない糸は、天井から吊り下げて乾かしているそうです。
機織り機が一列に並んでいました!生地に光沢感があり艶々としています。
畳の部屋には生地で作った作品が並んでいました、
「日常にそっと寄り添う美しいものを」をコンセプトに、工房内で染織した米沢織物で様々な小物を作られているそうです。どれも素敵で目移りしました。生活とものづくりが一緒になっている空間で、染められた糸、生地の美しさに触れることができ更に米沢織物を知ることができた貴重なひとときでした。
あとがき
以上360°よねざわオープンファクトリー体験レポートでした!
米沢の地で織物が盛んな歴史もコトも知らず、機織り知識も全くない中で実際に訪れてみて、機械が豪快に動き、繊細な糸を扱い鮮やかな模様を作り出している様子を夢中になってみてしまいました。
全ての会場や工房にお伺いできなかったのが、本当に残念です。来年はさらにパワーアップして開催されるとのことでしたので、次回も楽しみにしたいと思います。
最後に、この場を借りてインタビューにご協力いただきました運営者の方々に感謝を申し上げます。(ものづくり新聞特派員 下河邊微)
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