オープンファクトリー運営者に届ける!知りたいニッチな裏話

2023年09月14日 公開
日本各地のオープンファクトリー・ものづくり系イベントの運営者にインタビューして分かった、運営の声をご紹介いたします。
「他のイベント運営者さんはどんな風にしてるの!?」と気になったことや、「もっとイベントを良くしていくために参考にできる情報が欲しい!」と思ったことはありませんか?運営者に聞いてみたいけど、なかなか聞けない運営事情を、全国のオープンファクトリー・ものづくり系イベント運営の方々にインタビューして参りました!
その中から特に話題に上がることが多かった4つのテーマをお届けいたします。
 
 
 

テーマ①:お金のこと

 
イベントの運営には避けて通れないお金の話です。はじめに「イベントの資金はどのように集めていますか?」という質問にお答えいただいた、11のイベント運営者の方々のデータをご覧ください。
 
7割を超えるイベントが、「行政の予算や補助金+参加事業者からの参加費」でイベントを運営しているという結果でした。次に、各イベントの運営者に具体的な体制や工夫について伺いました。
このテーマに関しては、イベント名を伏せた形でご紹介いたします。

参加費は高め。でもその分、参加事業者が本気になれる体制を整える。

このイベントは昨年に比べて、今年の参加費が2倍以上(数十万円)となりました。その訳を運営者に話を伺うと、参加事業者の皆さんは「イベント当日だけではなく年間を通して情報交換や交流を行い、共にチャレンジできる仲間」という強固な繋がりがあるといいます。参加費に関しても、イベントの参加費でありながら、実際のところ「事業者同士が集まるコミュニティの年会費」のような意味合いも強く、実際にイベント以外にも様々な活動を行っているそうで、参加費の値上げも納得いくものだったそうです。現に、昨年参加した事業者からのリピート参加率は100%に近く、新規で参加を決めた事業者もあります。
 

補助金がなくなった後が心配…

このイベントは、費用の大部分を行政や商工会からの補助金で賄っています。参加事業者からの参加費(数千円ほど)はありますが、その参加費はイベント当日に使用するオリジナルグッズ制作費用に充てられており、参加費の部分だけ見ると赤字になっているといいます。また、ワークショップや体験料金も無料としているため、参加事業者が当日の売上を見込める部分はないという点も気になっているそうです。
現時点では各補助金によって成り立っているものの、行政からの補助金がなくなった時が心配だとおっしゃっていました。
 

一見、予算があるように見えても実は無理している

このイベントは、行政(国・県・市)からの補助金に加え、参加費(数万円)を運営資金としています。総額だけで見ると1,000万円を超えるのですが、予算としては足りていないのが現実だといいます。特に費用が掛かっているのはイベントの世界観を作るためのデザインや装飾費だそうですが、イメージを作り、守っていくためには省けない部分であるとのこと。
設営準備のようにマンパワーが必要な部分をできるだけ委託せず運営側が自ら行うなど、多少無理をしながら削れるところを少しずつ削っているといいます。
 

■補助金なしでも開催できるよう先を見据えた参加料10万円

このイベントは、主に行政からの補助金と参加事業者からの参加費を運営資金にしています。今年の参加料は10万円。前回15万円と設定し、高いとの声が上がり今回は価格を下げた設定となりました。この金額設定は、いつか補助金がなくなるかもしれないという未来を想定してのことです。イベントを持続的に開催していくために必要な予算を考え、譲れないラインだったといいます。
ワークショップの価格設定は各社に任せており、無料で実施する事業者から、利益を見込んだ価格設定をする事業者まで様々いるようです。価格設定に関して強制はできないものの、本来稼働できるはずだった本業を止めて参加している以上は赤字にならないように設定して欲しいと声がけしているとのことでした。
 

テーマ②:イベントを支える人たちのこと

 
イベント当日は多数の来場者が見込まれるため、ボランティアやサポーター、外部業者の力を借りるイベントも多くあります。どのような形で力を借りているのか、どんな人たちが集まっているのかを伺いました。
 
 

和歌山ものづくり文化祭

こちらのイベントには、ミラスタという学生スタッフの方々がいらっしゃいます。ミラスタは単なるボランティアではなく「ものづくり文化祭参加企業といっしょに各社の一員としてブースの運営に参加する学生スタッフ。」(和歌山ものづくり文化祭noteより引用)というポジションだそうです。
当日はブースに立ち、企業の方と一緒にイベントを盛り上げることはもちろんのこと、事前に担当企業を決めて会社を訪問し、工場見学などを通してものづくりの理解や興味を深める取り組みも行なっているそうです。
 

五泉ニットフェス (新潟県五泉市)

こちらのイベントには「アンバサダー企画」という特徴的な取り組みがあります。アンバサダーとは、主にニット産業に携わっていない一般の方で、このイベントに関わりたいという思いを持った方々のことです。イベント準備期間から実行委員会と共に動き、イベント作りに深く関わっています。
元々は、ニット産業に関わっていない方の意見をイベントや業界に取り入れたいという実行委員会の思いから始まった取り組みで、イベントを盛り上げるだけではなく「アンバサダー自身がこの地でどんなことを実現したいか」をとても尊重した企画ラインナップです。中には、いつか自分でもイベントを起こしたいという情熱を持った参加者や、毎年リピート参加している方もいらっしゃるそうです。
アンバサダーについて詳しくは五泉ニットフェスのこちらのnoteをご覧ください。
 

RENEW (福井県越前市・鯖江市・越前町)

こちらのイベントには「あかまる隊」というチームがいます。あかまる隊は、様々な形で産地のものづくりと関わりを持ち、地域やものづくりを盛り上げたいと考える学生や社会人らによって構成されています。その活動内容は実に様々で、RENEW当日のスタッフとして活動する方はもちろんのこと、それだけではなく年間を通して産地を盛り上げるイベントを開いたり、職人さんと交流してその様子を発信したりと、それぞれの興味・関心に応じた活動を行っています。
中でも面白い取り組みだと感じたのは、あかまる隊がメインとなって切り盛りする「RENEW TRAVEL STAND」という企画です。これは、産地の職人が作った器でドリンクを楽しみながら、RENEWの周り方や情報を教えてくれるというものです。RENEWや産地のことを熟知した方々と交流できるチャンスです。
 

めがねフェス(福井県鯖江市)

このイベントは、地元大学生を中心とした「めがね研究会」というチームと共に活動を行なっているといいます。イベント当日の運営サポートはもちろんのこと、研究会で展示ブースを1つ担当し、自由に企画してもらうという取り組みも行っているそうです。
また、鯖江市主催のイベントと同時開催となるため、市の職員の方々に一部サポートしていただいたり、会場と駐車場を往来するシャトルバスの運営は、資格を持ったプロが行う必要があるため外部の専門業者に業務委託したりと、外部の力も借りているといいます。
 

JAPAN CRAFT EXPO 日本工芸産地博覧会 2023

このイベントは日本各地の産地の方々が一ヶ所に集まり、ワークショップや展示を行うイベントです。ワークショップがメインのため各社少なくとも数名の人手が必要です。これまではボランティアを募っていましたが、普段産地でものづくりをしている作り手にこそお客様と直接交流し、他のブースを見てほしいという考えのもと、積極的に各企業の作り手が参加することを推奨しています。そのバックアップとして、各企業のスタッフが参加する場合の旅費や宿泊費を4人まで2/3補助する取り組みを始めました。
 

一方で、こんな悩みの声もありました。

  • ボランティアを募集して当日スタッフとして関わってもらっているが、もっとボランティアの方にも楽しんでもらいたいと思っている。当日、来場者や出展者とコミュニケーションが取れるように配置や役割を考えているが、まだまだうまくいっていないと感じるし、人数も足りていない。募集のやり方についても再検討したい。
  • 現時点では参加事業者と実行委員会のメンバーが中心となって企画し、そのメンバーが当日の運営スタッフとしても動いている。なんとかやれているが、今後のことを考えるとサポーターやボランティアの方々の存在は検討していきたいと思っている。一度、学生ボランティアの方々と一緒にやろうとしたことがあったが、運営側でうまくフォローできずフェードアウトしてしまったことがあった。
 
 

テーマ③:集客や広報のこと

 
ターゲット層の方々に足を運んでもらうため、宣伝や集客、PR活動は欠かせません。しかし、正直そこまではなかなか手が回らないという課題もあるようです。各イベント、どのように取り組んでいるのか伺いました。
 

おおたオープンファクトリー(東京都大田区)

こちらのイベントのターゲット層は、家族連れ・小さい子供とその親御さんです。なかなか足を運ぶ機会のない工場に来てもらい、工場の人がどんな服装でどんなふうに働いているのかを知るきっかけにしてほしいと考えておられます。
集客・宣伝に関しては、SNS(X、Facebook)での情報発信、小学校や中学校に向けた広報活動、協力関係にある地元信用金庫による広報活動を行っているそうです。学校への広報活動は、まさにターゲット層に直接PRできる機会であるため、有効な方法だと感じます。
 

五泉ニットフェス(新潟県・五泉市)

こちらのイベントのターゲット層は、ものづくりに興味のある若者を中心とした幅広い世代です。ターゲット層に効果的にPRするために、広報面では地元のJR東日本協力のもと、イベントポスターを駅構内への掲示したり、イベント情報の発信をしたりと幅広い世代にイベントを知ってもらえるような広報活動を行っています。
他にも、Googleを利用したウェブ広告や近隣地域住民の方々へ冊子やポスターを配布するなどの取り組みも行っています。宣伝や広報までなかなか手が回らないという悩みを抱えながらも、外部の協力を得ながら取り組んでいるそうです。
 

こんな声もありました。

  • 広告や宣伝に充てられる費用は正直言ってほとんどない。なので、基本的には手軽にできるSNS発信による宣伝のみで集客・広報活動を行っている。その分、内容やテーマを絞ったキャッチーな企画を用意してアピールしようと思っている。
  • 運営や広報に関しては、代理店に委託している。しかし、企画やデザインなど全てを代理店に委託するのは費用がかかりすぎてしまうため、運営メンバーがある程度内容を考えた上で代理店に委託するという形を取っている。代理店が入っているとはいえ、運営側の企画力やデザイン力は必要だと感じる。
  • 市の広報誌にチラシを折り込む、市民図書館へのポスター配布、駅にポスターの掲示をしている。
  • ポスター制作、SNSでの告知などできることはやっているつもりだが、予約がすぐに埋まるワークショップもあれば、なかなか埋まらず集客に苦労している参加事業者もいる。近隣地域で行われている他のオープンファクトリーやイベントとも繋がりがあるため、そこで宣伝をさせてもらっている。
 
 

テーマ④内部のコミュニケーションに関わること

 
運営側と参加事業者は様々な情報のやり取りをしますが、コミュニケーションや情報収集の方法はイベントによって様々だということがわかりました。
 

参加事業者や運営内でのやり取りについて

■Slackなどのビジネスチャットツールを利用しているパターン

  • 運営チーム内でのやり取りはSlackを利用している。何年か掛けて少しずつ使ってきて、最近ようやくSlackでのやり取りに一本化できた。
  • 運営チームメンバーの大半が既に本業でSlackを利用していたため、運営メンバー内でのやり取りはスムーズにSlackで行うことができた。はじめはメッセンジャーも併用していたが、話題を見逃してしまうことが多々発生したため、今はSlack一本でやり取りしている。参加事業者や運営に参加してくれる学生とのやり取りに関してもSlackを利用していたいと考えており、利用を促す予定だ。
 

■LINEなどの身近なチャットツールを利用しているパターン

  • 会社を通してやり取りするよりも、直接個人と連絡が取れる方が早いためLINEでグループを作りやり取りしている。メンバーはほとんどが企業の社長ということもあり、個人のLINEを共有することに抵抗がある人は少ないと感じている。
  • 運営メンバーの平均年齢が50代以上で、使ったことのないツールを使うことへのハードルが高いため、普段使っているツール(LINE)でのやり取りが一番スムーズだった。
  • メッセンジャーとLINEを併用している。必要なやり取りをする場所というだけではなく、いつでも思い付いたアイデアを共有できる場所としても活用している。個人的にはSlackを導入したいという気持ちもあるが、抵抗感を示すメンバーがいたため現時点では導入していない。
 

■メールを利用している・電話や訪問もしているパターン

  • 基本的にはメールでやり取りをしている。10年ほど前は7、80代の参加事業者が多く、メールでのやり取りを受け入れてくれる人が少なかったためFAXでやり取りしていた。しかし、世代交代が進んだことで平均年齢が下がり、徐々にメールでのやり取りができるようになってきた。地域柄、県外や国外の人とのやり取りがある企業も多いため、パソコンやメールなどに慣れている人が多いという背景もあるかもしれない。一方で、メールによるやり取りにまだ慣れていない参加事業者は一定数おり、「メール見てないんだけど・・・」という声が届くのも事実。しかし、イベントだけではなく今後のこと考えると、メールに慣れて欲しいという気持ちがあるため、手間は掛かるが再度メールを送信して見てもらうなど徹底して対応している。
  • 必要事項は一斉メールで連絡しているが、どうしても電話じゃないと連絡がつかない人もいるため、そういう方に対しては電話での連絡も行っている。
  • 連絡にはメールを利用しているが、連絡作業や情報管理に関わる部分の仕事量が増えてきており、どうしても実行委員会だけではマンパワーが足りないため、一部外部業者に委託している。それでもメールの返信がなく連絡がつかない参加事業者もいる。そういった方には可能な限り訪問してフォローするなどしている。
 

必要情報の収集や管理について

■Googleスプレッドシートを利用している

  • 情報やお知らせなどはGoogleのスプレッドシートで管理し、参加事業者には各自見てもらうように伝えている。しかし、見てくれる人ばかりではなく事務局宛に電話での問い合わせが来てしまうことも多々あり、事務局の負担が増えてきていると感じる。提出資料に関しても、Googleフォームやドライブを活用して写真を提出してもらうなど、できるだけ事務局の負担が減るように工夫している。
  • 申し込み後に発生するやり取りをできるだけ減らすため、企業が参加申し込みをするタイミングでできるだけ細かい情報まで集められるように意識している。例えば、飲食分野での参加事業者には当日使用する電化製品の種類や、メニューを申し込み時に決めて提出してもらうなど。ツールはGoogleフォームを利用している。
     

    以上、合計17のオープンファクトリー・ものづくり系イベント運営者にインタビューしてわかった運営事情でした。イベントに参加しただけではわからないこと、聞きたくてもなかなか聞けないと思っていたことはあったでしょうか?
     
    インタビューを担当した筆者から見ても、参加者としてオープンファクトリーに参加しただけでは見えなかった試行錯誤を知ることができました。今後オープンファクトリーを開催したいと考えている方や、悩みを抱えている運営者の方々のヒントになれば幸いです。
    内容についてもっと深く知りたい!という方は編集部までご相談ください。(X:ものづくり新聞、メールmonojirei@publica-inc.com )
     
    また、この場を借りてインタビューにご協力いただきました運営者の方々に感謝を申し上げます。内容に関して気になる点等ございましたら、お手数ですがご連絡いただきますようお願いいたします。
     
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