あの手、この手、「次の手」で、ものづくり産地の未来を切り拓く。高岡伝統産業青年会主催 “ツギノテ” 潜入レポート

2023年11月29日 公開
今回編集部が向かったのは富山県高岡市。2023年11月3~4日に開催された、高岡伝統産業青年会主催のクラフトフェア、「ツギノテ」のイベント会場へ向かいました。

ツギノテとは?

ツギノテとは、今年初開催となる、「100以上の日本全国のものづくり企業やクラフト作家が集まる産地特化型のクラフトフェア」です。あの手、この手、”次の手” で、ものづくり産地を更に盛り上げようとする、つくる人、つなげる人、つかう人、ものづくりが大好きな全ての人ためのイベントです。

高岡伝統産業青年会とは?

このイベント、ツギノテを企画・主催したのは高岡伝統産業青年会です。
現在、日本には3つの「伝統産業青年会」という団体があります。元々は地域の商工会議所や同業者組合のようなものから始まり、そこから有志で集まった人々が飲み会をして交流を始めたところからこの青年会が生まれたとされています。
京都府、石川県、高岡市にそれぞれある伝統産業青年会は、それぞれ入会や卒会の際のルールがあります。特に、高岡市の伝統産業青年会のように”市”単位で活動している団体は他にはなく、職種や業界の垣根を超えてより近い距離で会員同士が盛んに交流してきたのが特徴です。
 
高岡伝統産業青年会(以下:伝産)の場合、10年ほど前までは伝統産業に従事する職人と問屋のみ入会することができ、40歳になると会員は卒会する、というルールでした。ピーク時は200人ほどの会員が在籍していました。しかし近年は、高岡銅器、高岡仏壇、高岡漆器などの伝統産業に従事する人も、伝統産業の市場も減少の一途を辿っています。
高岡銅器・鉄器販売額の推移。ピーク時の1990年代の約375億円に比べ、現在は4分の1程度に減少し、それに伴い従事する現場の職人たちも別のものを扱う職人になったり、企業へ就職したりせざるを得ませんでした。(引用元:高岡特産産業のうごき令和2年度版, 高岡市産業振興部産業企画課)
高岡銅器・鉄器販売額の推移。ピーク時の1990年代の約375億円に比べ、現在は4分の1程度に減少し、それに伴い従事する現場の職人たちも別のものを扱う職人になったり、企業へ就職したりせざるを得ませんでした。(引用元:高岡特産産業のうごき令和2年度版, 高岡市産業振興部産業企画課)
 
このままでは、高岡の伝統産業が消えてしまう!職人や問屋が減ったら、伝産の存続も危うくなってしまう!と感じた10年前の会員たちは「ものづくりが大好きな人」であれば職人や問屋以外のどんな職業の人でも入れるようにルールを改めました。最近は広報やデザイナー、建築家など、様々なバックグラウンドを持つ会員が集まっており、伝産も変化しつつあります。
 
変化を遂げている今の伝産を深く知るべく、別記事にて伝産会員の6名の方々に取材をしました。随時公開しておりますので、こちらもぜひご覧ください!
 
 
それでは、いよいよ会場に潜入してみましょう!
高岡駅から出てすぐにツギノテのポスターの掲示があり、迷うことなく会場に向かうことができました。エレベーターで6階を押すと、会場に到着しました。

イベント会場はまさかの立体駐車場?!

ツギノテの会場に選ばれたのは、高岡駅直通の立体駐車場!6階から屋上までが会場となっていて、それ以外のフロアは普段通り駐車場として利用されています。
 
今回、ツギノテの会場に立体駐車場が選ばれたのには理由が3つあります。
 
①“一坪工房”として数々のものづくりの現場を一度に見れるようにするため
出展企業の工房一つ一つを回るのは体力的にも難しく、スケジュール的にも1日に回れる企業は3つくらいが限度です。しかし、会場のブースを一坪の工房として再現してもらうことで、来場者がたくさんのものづくりの現場を一日にたくさん見ることができます。
 
②不安定になりがちな天気を考慮し、雨天時も開催できる屋根がある場所が必要なため
富山県は強い風が吹いたり、曇りの日が続いたり、急に雨が降ってくるなど、不安定な天気の日が多いです。どんな天気であっても確実に来場者に楽しんでもらうため、天候に左右されないこの立体駐車場が選ばれました。
 
③車社会の高岡で駐車場との移動距離を最小に留めて、スムーズに来場してもらうため
高岡は車がないと移動が難しいエリアが多く、当日も車での来場が多く見込まれていました。家族連れや遠方からの出展企業も多い中、駐車場の確保と駐車場からの距離を縮めるには、会場を立体駐車場にしてしまおう!という考えのもと、このイベントが企画されました。
 
 

ものづくり新聞記者が見つけたツギノテの見どころ3選!

現地で見つけた、ツギノテの魅力を3つご紹介します。
 
❶ツギノテ公式マスコットのツギネコ(招き猫)とダルマのコンビ!
(提供元:高岡伝統産業青年会)
(提供元:高岡伝統産業青年会)
ツギノテ2023公式イラストレーター、ふくさんが描いた黒ダルマと招き猫がイベント会場やSNS、パンフレットなど様々な場面に登場します。
よーく見ると、投稿ごとに表情やポーズに違いがあって、ダルマたちの心情が伺えます。イベント前にツギノテのInstagramを見ている時間もワクワクしました。
 
お得にお買い物!思い出に冊子としても取っておける「ツギペイチケット」
クラフトフェアやオープンファクトリーでは、スムーズに決済を行うために、現地でのみ使えるオリジナルのQR決済や商品券がよく見られます。ツギノテの「ツギペイチケット」はそれらとはちょっと違います。
 
2500円で3000円分のお得なお買い物チケットがもらえるのはもちろん、チケットひとつひとつに12人の職人が自社技術で作ったツギネコの作品が掲載されているのです!蒔絵師の描く金継ぎの招き猫や、着色師のおはぐろ仕上げで独特の風合いが生まれた金属製の招き猫など、計12社の職人の作品が載っています。
 
招き猫というひとつのモチーフをそれぞれの職人が別々に作品にするという面白い取り組みを、イベントが終わってからもミニブックにして見返すことができます。他にどんな招き猫がいるのか気になった方は、ぜひこちらのプレスリリースをご覧になってください。
 
 
 
気軽に入りやすく、誰でも楽しめるラフな雰囲気!
立体駐車場という開放的な会場や、あたたかい人柄の運営陣や出展者が多いことがそうさせるのか、家族連れ、カップル、一人で、誰にとっても居心地が良い雰囲気を感じます。その入りやすいムードの中にいざ入ってみると、本格的な職人技がたくさん展示されています。実際に、そのギャップに魅力を感じる人が多かったようです。
トークセッション会場には色々な椅子が並んでいました。まるで、多様で馴染みやすい人柄の運営陣や出展者を象徴しているかのようでした。
 

ツギノテの3つのブース紹介

ツギノテには大きく分けて3つのブースがあります。
 
①産業技術展示エリア
鋳物がどのようにできるのかがわかる鋳型などを展示した、ものづくりのプロセスやこだわりが見れる展示エリアです。
②ワークショップ体験エリア
子供も大人も楽しめる、スズや漆器、木材を使用したワークショップが行われています。
③マーケット&フードエリア
日本全国からクラフト作家やカフェ、飲食店が集結しています。インド料理、おでんからサウナまで、様々な出展者が立体駐車場の屋上を盛り上げています。
 
「立体駐車場で、普段は車が走るところをゆっくり歩いて回る」というユニークな体験をしながら、日本全国から集まる100以上のものづくり企業やクラフト作家のブースを見て回ることができます。
 
天気も良く、立体駐車場から見える街の風景も見物でした。
 
 
DJもいて、色々な音楽が流れる、雲ひとつない晴天での立体駐車場は想像以上に居心地が良いんです。
 
 

マーケット&フードエリアの出展者の紹介

ものづくりの世界にどっぷり浸かるには、まずは腹ごしらえ。ということで、フード・マーケットエリアの出展者をご紹介します。
 
レンジでチンして、とろーりバターが染み込んだあつあつのどら焼きが食べられる、HOT DORA BUTTERさんを発見しました。
 
お店の前には電子レンジもあり、食べるときにはその場で温めてくれる、新感覚のどら焼き。
 
 
アーモンドチョコと五郎島金時をいただきました。アーモンドチョコはチョコも溶けていて、大きさもボリューミーで大満足でした。
 
「レンチン上等」がかわいいステッカーも!
「レンチン上等」がかわいいステッカーも!
 
HOT DORA BUTTER
 
小腹も満たせたところで、ついに産業技術展示エリアに足を踏み入れます。
 

産業技術展示エリアの出展企業の紹介

産業技術展示エリアでは、富山県内外から伝統産業を支える工房や、優れた自社技術を持つ企業が集結。こちらの出展企業のうち5つをご紹介します。

①仏具✖️植物の組み合わせが新しい「わびさびポット」株式会社ハシモト清

2020年にハシモト清の代表、橋本卓尚(はしもと たかひさ)さんが生んだ、「わびさびポット」。セット販売が一般的な仏具業界で、孤立してしまった単体の香炉を植物鉢として再利用する取り組みです。香炉が持つ重厚感や経年変化による風合いと、個性豊かな植物との相性を考えて作られています。
 
橋本さんが日本全国で出会った個性的でかわいい植物をセレクトし、香炉とセットで販売しています。自分好みの植物と自由に組み合わせられるよう、香炉単体でも販売されています。
 
 
わびさびポットの生みの親であるハシモトボタニカルこと橋本卓尚さん。頭には、テキーラやアガベシロップの原材料としても有名なアガベの被り物が。ハシモトボタニカルさんのアガベ愛を感じます。
 
 
被り物のモデルとなったアガベの写真を見せてくれました。
 
様々なサイズや種類があり、それぞれのわびさびポットに個性を感じます。美術館で一つ一つ作品を見ているような気持ちになりました。
 
ハシモトボタニカル
わびさびポット
 

②子供達に大人気のツギノテ限定ガチャガチャ!有限会社色政

 
次に向かったのは高岡の伝統産業の一つ、高岡銅器の銅器着色をされている色政さんのブースです。ツギノテのツギネコがデザインされたお守りキーホルダーと、富山県のご当地おみやげが描かれたキーホルダーのガチャガチャがありました。
 
(提供元:有限会社色政)
(提供元:有限会社色政)
 
実際に着色された独特の風合いを楽しめるレアキーホルダーも隠れています。
 
 
ゲットしたキーホルダーは「無病息災」と「げんげ」。げんげ(珍魚)は細長い深海魚で、希少なため幻の魚とも言われているようです。使うほどに金属に傷ができたり色味が変わったりして、その風合いの変化も楽しめるようになっています。
 
色政
 

③自社技術を全て表現したら、小さなギターができた?!株式会社富山プレート

富山プレートさんはUVプリンターなどを使用し、プレート製造・印刷、シール印刷、樹脂加工、金属薄板加工などをされている富山県の企業です。
 
今回の出展に合わせ、ツギネコが載った小判のサンプルも飾られていました。富山プレートさんが持つ自社技術をどうしたら展示会などでわかりやすく伝えられるのか、考えた結果生まれたのがこの小さなギターです。
 
 
このギター1つにプレート印刷、樹脂加工、シール印刷などの技術がぎゅっと詰め込まれています。実際に展示会などで置いていると目立つので、フラッと立ち寄った来場者に興味を持たれることが多いようです。
自社製品を開発したり、SNSなどで発信したりする以外にもできる、親しみを持たれやすいモチーフに自社技術を集結して作品を作ってみるという面白い取り組みでした。
 
富山プレート
 

④日常で見かける“あの金属”に輝きを生み出す!株式会社美光技研

美光技研さんは岐阜県で100種類以上の金属研磨の模様を施す企業です。ライトを当てると模様が動いて見える様子がとても綺麗です!ライトを当てなくても自然光で輝いているサンプル版で、どこの展示ブースよりも明るいブースでした。
 
金属を扱う高岡の伝統産業関係者や企業も多く出展されていて、出展企業同士のご縁がたくさん生まれたようです。いくつか「こんなものは作れる?」という問い合わせもあったのだとか。
 
美光技研の代表取締役、和田昇悟(わだ しょうご)さん
美光技研の代表取締役、和田昇悟(わだ しょうご)さん
実はこういった金属研磨の技術は身の回りの色々なところにあるんです。例えば、有名ゲーム機の裏側のロゴを縁取る部分にも、この技術が活用されています。
それから、味付けのりのパッケージや家の表札などにもこういった模様を見かけたことはあるのではないでしょうか?ですが、一度にこれほどたくさんの金属研磨の模様だけを見れる機会はなかなかないので、とてもワクワクする展示でした。
 
美光技研
 

⑤自社技術を来場者に知ってもらうため、ツギノテの半年以上前から2つの自社商品開発に挑戦!株式会社ウイン・ディー

ツギノテの前身でもある、伝産が主催した2022年開催の「くらしに生きる伝統のかほり展」に出展され、今回で2回目の出展をされたウイン・ディーさん。
神奈川県に本社があり、富山県高岡市に製造拠点もあります。主に試作品製造を請け負いながら、製品開発に関わるほぼ全ての工程を一貫して依頼も引き受けられる開発総合支援企業です。
自社製品はないけれど、自社の優れた技術を披露し、自社の認知度UPに繋げたい!その想いでイベントの半年以上前から2つの商品を開発されました。そのうちのひとつがこのシリコンゴム製の動物たち。柔らかい触り心地とグラデーションがかった綺麗な発色に興味を惹かれます。
 
3Dプリンターを用いたプロダクトデザインのモック製造も行うウイン・ディーさん。この動物たちもその3Dプリンターで作られました。色味や形を自社でゼロから考案したそうです。
シリコンゴム製の動物を企画・担当された髙田司彩(たかた つかさ)さん。
シリコンゴム製の動物を企画・担当された髙田司彩(たかた つかさ)さん。
 
ウイン・ディー
 

イベントでどんなツギノテ(次の手)が生まれたのか?

 
イベント出展企業が参加できる交流会などを通し、出展企業同士も親睦を深められたようです。交流会は涙あり笑いありの大盛り上がりでした。(取材のため特別に参加させていただきました。)
出展ブースでは来場者から「こういうものは作れるか?」という提案や依頼もたくさん挙がり、様々なところでアイデアの種が蒔かれたようでした。ここから実際に生まれた新しいブランドや商品が誕生したときには、ものづくり新聞のXアカウントなどでも拡散のお手伝いをさせていただきます!

立体駐車場が数年ぶりに満車になった日

1日目は2100人を超える来場者が会場に押し寄せ、入場手続きのための入り口には長蛇の列ができていました。2日目は少し落ち着いてゆっくりと展示を見て回ることができました。
いつもは満車になることがほとんどないこの立体駐車場が、イベント中の2日間は満車になったそうです。高岡駅周辺も人通りがイベント以外の日よりも多く、街が丸ごと盛り上がっていた印象でした。
今年初開催の「ツギノテ」潜入レポートでした。少しでも興味を持った企業や取り組みがあれば、ぜひSNSアカウントや公式HPをチェックしてみてください。皆さんにとっての「次の手」のきっかけになれば幸いです。
 

編集後記

話が盛り上がったその場では「それいいね!やってみようよ!」という話題が挙がったけれども、実際には何もアクションを起こさないということはよくあります。それは、忙しい日々のなかで、目の前のことをこなすのに手一杯だからなのかもしれません。それでも、「明日から何を行動に移していくことができるか?」「次にどんな手を打つか?」という視点で、その場その場の時間を大切に使っていけるようにしよう、ということをこのイベントから学ばせていただきました。このイベントに関わった全ての方に心から感謝申し上げます。
( ものづくり新聞記者 佐藤日向子 )
 
 
ものづくり新聞では、アンケートキャンペーンを実施中です。2023年12月15日までこちらのアンケートで記事の感想をお聞かせください。抽選で5名様に素敵なプレゼントもご用意しています。皆様からのご応募、お待ちしております!(※こちらのキャンペーンは終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。)

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