伝統産業を守る作り手の想いを追いかけ、高岡伝産に出会う。

2023年12月01日 公開
 
富山県高岡市は、高岡漆器、高岡銅器、高岡仏壇など複数の工房が集まる産地として有名です。そしてこの高岡の伝統産業を支えるキーとなるのが「高岡伝統産業青年会」と呼ばれる団体の存在です。
 
高岡伝統産業青年会(通称 高岡伝産:以下 伝産)は、高岡市の職人や問屋が集まる団体で、今年(2023年)創設50周年を迎えました。元々は地元の職人がメインの集まりでしたが、職人の人柄や技術力に魅力を感じた人が他の街から移住したり、地元の人が自分の専門分野で活動してくれたりという動きもあり、近年ではメンバーの顔ぶれも多彩になりました。卒会制度があり、40歳までの人だけが参加できる、高岡の熱い若者が集まる団体です。
 
彼らが本業を続けながら同時に伝産での活動に命を燃やすのは、高岡の伝統産業を、高岡という街を、ものづくりの産地としてさらに盛り上げるため。しかし、業界の縮小や安価な外国産の商品流入により、その高い技術力を生かせる場が減ってきています。この現状を打破するには、これまでの受注中心のものづくりだけではなく、新たな販路開拓や技術の開発など、新しいアクションを起こさないといけません。日々目の前の仕事をこなすだけではなく、長期的な視点で家業や、伝統産業、街のことを想う熱い人が、伝産にはいます。
(提供元:高岡伝統産業青年会)
(提供元:高岡伝統産業青年会)
 

株式会社ハシモト清/高岡伝統産業青年会 間宮 史佳さん

今回は富山県高岡市に2021年に移住され、仏具メーカーの株式会社ハシモト清で勤務しながら、高岡伝統産業青年会でイベント出店企業のキュレーション、企画、広報などをされている間宮 史佳 (まみや ふみか)さんにお話を伺いました。
 
ーー自己紹介をお願いします!
「私は東京都出身で、前職では石川県の『山中漆器』などを扱うショップの東京営業所に勤務していました。自社ショップでのバイイングや営業で企画のお仕事をさせていただく中で、作り手の想いや背景を理解して企画することの難しさに気付きました。プロセスを理解した上でプロダクトを作りたいという思いから職人とのコミュニケーションの機会を探していました。
2019年、ギフトショーという展示会で偶然隣のブースにいた伝産会員と知り合い、飲み会に誘われて親睦を深めました。その後、お誘いを受け、2020年に伝産の東京会員として東京と富山を行き来しながら伝産の活動に参入しました。(それまでは東京会員という存在もありませんでした。)2021年の初めに高岡の仏具問屋である株式会社ハシモト清の営業部へ転職し、高岡に移住しました。」

“工芸は宗教と密接に関わって生まれるもの”と知って高岡仏具に興味を持つ

「2019年に高岡のものづくりや、街、風土を学べる外部クリエイター向けのツアーに参加させていただきました。新鮮な体験の中で、お寺の住職さんから“工芸、アートは宗教から生まれ発展する”というお話を聞きました。今後も日本の工芸、ものづくりのお仕事をしていきたいと考えていたので、ルーツである宗教に関わるものづくりから歴史や成り立ちを勉強することで新しい世界観を体得できるのではないかと思い、高岡の仏具にとても興味を持ちました。」
 
高岡仏壇とは
全国的に庶民の家に仏壇が置かれるようになった江戸時代、高岡でも仏壇が作られるようになりました。高岡仏壇は、国産材を用いた堅くて丈夫な造り、金箔をふんだんに用いた内装、彫金の錺金具(かざりかなぐ)や彫刻、蒔絵による装飾、扉が大きく開く形状が特徴です。(引用元:富山県
 
「ひとことで仏壇と言っても、花立、火立、香炉やおりんなどの金属製品や、掛け軸や打敷、位牌など様々な仏具によってひとつの仏壇が成立しています。仮にそのどれかひとつでも作る人がいなくなってしまうと、ドミノ倒しのように仏具産業全体が崩れてしまう可能性がある。古くは江戸時代から現在に至るまで、そういった産業としての危うさがあることは目を背けられない事実です。核家族化や単身で住む人が増えた現代では、仏壇を置かない家庭も増えているので、和室の仏間がなくても手を合わせられるように、新しい仏具のあり方としてデザインが洋風のものや、サイズが小さいものが生まれています。」

“仏具×植物”で生まれた新しい仏具のあり方『わびさびポット®』

「今の職場に出会ったきっかけは、東京会員だった2020年にイベントのサポートで高岡に短期滞在していた際、当時伝産会員だったハシモト清の代表取締役の橋本卓尚(はしもと たかひさ)との出会いでした。」
ハシモトボタニカルさん(橋本卓尚さん)は特注でアガベの被り物を作ってしまうほど大の植物好き。自宅や庭には所狭しと数百の植物が植えられています。コロナ禍初期から植物にハマって、全国各地で一目惚れした植物を持ち帰り、自宅で育てているのだとか。
ハシモトボタニカルさん(橋本卓尚さん)は特注でアガベの被り物を作ってしまうほど大の植物好き。自宅や庭には所狭しと数百の植物が植えられています。コロナ禍初期から植物にハマって、全国各地で一目惚れした植物を持ち帰り、自宅で育てているのだとか。
 
「代表の橋本は、2020年に社内に在庫していた香炉を植木鉢「わびさびポット®」として再提案する新ブランド「#SilenceLAB」の活動を開始しました。植物は元々好きだった訳ではなく、この活動を通じて植物と出会い、現在に至ります。仏具は基本的にはセット販売のため、香炉単体で残ってしまっては一般的な販売の場には出しにくいです。そういった在庫を溶かして再利用するのではなく、”職人の技を残す術が他にあるのではないか?” という発想で新しい取り組みを行っています。」
わびさびポット®。香炉の色味や重厚感に合った個性豊かな植物たちが植えられています。
わびさびポット®。香炉の色味や重厚感に合った個性豊かな植物たちが植えられています。
 
わびさびポット®とは
1950~90年代に仏具として生産され、行くあてもないまま倉庫に残された過去の金属工芸品が2020年にデッドストックとして大量に発見されました。近年、仏具の需要が減少し、行き場をなくした器は溶かされ、金属資源として別の用途で再利用されています。しかし、それだけでは「職人技の継承」が止まり、伝統工芸自体が消え去ってしまいます。仏具を別の用途で使用することができれば、職人技の継承は生き残る。そんな想いを込めて、私たちは仏具を「植木鉢」として再び市場に戻します。(引用元:Silence LAB
 
「伝産の東京会員としての活動の中で、橋本が「うちで働かないか?」と声をかけてくれました。転職先を探していたタイミングで、転職活動をせずにお誘いを頂けたのはありがたいことだなと思う反面、東京を離れ、新しい街へ移住することを即決することはできませんでした。
ですが、自分自身も伝統産業の作り手と関われるコミュニティにいたいという気持ちがあって、移住を決意し、2021年初めから高岡で暮らしています。普段は、家庭用の仏具から寺用の仏具まで多岐にわたる弊社の商品の出荷管理を担当しています。「わびさびポット®」を扱うブランド#SilenceLAB では、マネージャーとしてイベント管理から商品撮影まで何でもさせていただいています。」

移住して最初の目標は「みんなの孫になろう」

「2年前、移住したばかりの頃は、まずは高岡のことを現場で深く知ることを意識していました。はじめに高岡の工房などに出向くことが多い仕事を任せられたことは、今振り返ると文化を知れる良い機会だったと思っています。年配の方と話していると自然と方言がわかるようになり、同じ時間を長く過ごすなかで自然と自分も話せるようになりました。高岡の人全てが同じように方言を話すわけではないので、もちろん中には標準語だけを話す人もいます。その環境で、自分は積極的に染まりにいくことで高岡に馴染めたらいいなと思っています。今では高岡で生まれ育った人に間違われることもあります。

伝産女子メンバーの休日

「現在、伝産の会員40人ほどの中で女性は6名くらい在籍しています。車がないと行けない場所に買い物に行きたいときは、車を持っていないメンバーを誘って数人で一緒に行ったりします。飲みに行くことも多いので、ほぼ毎日どこかで会っている気がします。みんなで飲みに行った帰りに歩いて帰れる場所に住みたかったこともあり、一年前に今住んでいる場所に引っ越しました。
 
あとは能学に興味があり、鑑賞や手伝いのためによく金沢へ行っています。伝統芸能特有の敷居の高さをあまり感じなかったのに加え、伝産会員の般若 雄治(はんにゃ ゆうじ)さんが能の演者をされているので、その応援に行くことがあります。能が持つ変わらない所作やストーリーのある背景に魅力を感じますね。」
 
(1年前、般若さんを取材させていただいたときの記事はこちらです)
 

職人が引っ張りだこになる産業へ

「私は親戚に職人がいるわけでもないし、伝統工芸品と出会ったのも単なる偶然でした。ですがそんな私だからこそ、外に向けて素敵だと思った作り手の想いや伝統工芸の魅力を言語化して発信することができると思います。」
(提供元:高岡伝統産業青年会)
(提供元:高岡伝統産業青年会)
「イベントの出店企業の方とお話する際は、その企業や職人の強みや独自性が際立つ出店内容を提案するだけでなく、コラボレーションできたら素敵な商品が生まれそうな企業の方をご紹介したりもしています。普段の職人との会話など、ちょっとしたところに新たな魅力の種のようなものが光っているのを見逃さないように気をつけています。
その企業や職人が魅力を発信することは、ゆくゆくは若い世代から後継ぎが生まれたり、企業全体の底上げに繋がると信じています。職人の技が多方面から必要とされ、もっと素敵な商品が生まれる産業となるよう、盛り上げていきたいです。」
 
(提供元:高岡伝統産業青年会)
(提供元:高岡伝統産業青年会)

歴史ある伝統工芸や作り手の想い、存在意義を持つものを後世に残すために

「小さい頃から歴史や社会を学ぶことが好きでした。出来事や存在に意味や理由を持つものは素敵だなと感じます。高岡に同じ仏具を作る会社が2つあったとしても、それぞれが持つ技術や職人さんの個性をお客さんが感じられるよう、それぞれの魅せ方を提案したりしています。まずは、しっかりと知る、そのために話しに行くということが全ての第一歩なのではないかと考えます。もし、伝統産業を守る作り手の想いを乗せ、その技術と個性が詰まったものを次の世代へ残していくために自分ができることがあるなら、迷うことなく行動に移していきたいです。」

編集後記

伝産の他の会員の方からも、「間宮さん無しに今の伝産は語れない」「間宮さんに取材してはどうか?」というご意見をお聞きしました。新しい環境に飛び込んだとき、若い世代や新メンバーであれば消極的に会議などに参加し、ただ指示を待つ人が多いと思います。でも間宮さんは積極的な姿勢を加入当時から見せており、企画書を作って会議に持ち込んだり、自分の意見をしっかり発言したりしているそうです。その活躍ぶりはこれまでいた伝産会員を日々驚かせ、刺激となっているようです。新しい角度から伝産を盛り上げる間宮さんのご活躍にこれからも注目していきたいと思います。
( ものづくり新聞記者 佐藤日向子 )
 
ものづくり新聞では、アンケートキャンペーンを実施中です。2023年12月15日までこちらのアンケートで記事の感想をお聞かせください。抽選で5名様に素敵なプレゼントもご用意しています。皆様からのご応募、お待ちしております!(※こちらのキャンペーンは終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。)

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