デザインの力で高岡を魅せる!伝統産業を未来へ繋げるプロデューサー
2023年12月04日 公開
富山県高岡市は、高岡漆器、高岡銅器、高岡仏壇など複数の工房が集まる産地として有名です。そしてこの高岡の伝統産業を支えるキーとなるのが「高岡伝統産業青年会」と呼ばれる団体の存在です。
高岡伝統産業青年会(通称 高岡伝産:以下 伝産)は、高岡市の職人や問屋が集まる団体で、今年(2023年)創設50周年を迎えました。元々は地元の職人がメインの集まりでしたが、職人の人柄や技術力に魅力を感じた人が他の街から移住したり、地元の人が自分の専門分野で活動してくれたりという動きもあり、近年ではメンバーの顔ぶれも多彩になりました。卒会制度があり、40歳までの人だけが参加できる、高岡の熱い若者が集まる団体です。
彼らが本業を続けながら同時に伝産での活動に命を燃やすのは、高岡の伝統産業を、高岡という街を、ものづくりの産地としてさらに盛り上げるため。しかし、業界の縮小や安価な外国産の商品流入により、その高い技術力を生かせる場が減ってきています。この現状を打破するには、これまでの受注中心のものづくりだけではなく、新たな販路開拓や技術の開発など、新しいアクションを起こさないといけません。日々目の前の仕事をこなすだけではなく、長期的な視点で家業や、伝統産業、街のことを想う熱い人が、伝産にはいます。
株式会社ROLE/高岡伝統産業青年会 羽田 純さん
今回は高岡のクリエイティブスタジオ、株式会社ROLEの代表であり、高岡伝統産業青年会のアートディレクションを担当されているプロデューサーの羽田 純(はねだ じゅん)さんにお話を伺いました。
羽田純さん1984年生まれ。大阪府出身。学生時代を秋田と富山で過ごす。富山の大学卒業後、高岡市の芸文ギャラリーでローカルの文化やものづくりをテーマにした数々の企画展を担当。そういった活動をしているうちに、当時の伝産会員から、「もっと内側に入ってリアルなものづくりを発信できるようにしたらどうか」という助言と誘いがあり、2008年ごろに伝産へ加入。伝産では、キービジュアルを制作するなど、職人を前に出すデザインで高岡の歴史や伝統工芸を発信するプロデューサーとして活躍。伝産では、はねさん、はねちゃんと呼ばれている。
富山県の”細工かまぼこ”を楽しく美味しく学べる展覧会
「大学卒業後、行政・大学・民間で発足した“芸文ギャラリー”の立ち上げに参加し、しばらくキュレーターとして働いていました。学生のサテライト施設として展覧会をお手伝いするだけではなく、このまちで根付いてきた文化(ものづくり、食、商店街)をテーマに様々な企画展を作りました。その中の一つが、地元のかまぼこ屋さんの細工かまぼこを楽しく学ぶことができる「かまぼこ大學」という展示です。細工かまぼことは、鯛などのおめでたいモチーフを色付けしたすり身で作られたかまぼこです。」
「この展示では、かまぼこを試食しながら、色鮮やかな細工かまぼこの作り方の解説や、かまぼこを作る際に使われる木型を見ることができました。普段なかなか知る機会のない地元のメーカーのことを身近に感じられるような場を作れたと思います。実は、富山ではお祝い事に細工かまぼこを贈る文化があるのですが、昔に比べたら今はあまり見られない慣習になってしまいました。」
「そういった贈答品としての需要が減っている中、細工かまぼこの新しいあり方ってなんだろう、ってみんなで考えられる場所作りとか、若者に向けて楽しく学ぶきっかけを作ることは、地元の企業や文化を守るためにも大事なことだと思います。」
数々の企画を持ち込み、伝産に新しい風を吹かせる羽田さん
伝産に加入してからは、イベントなどの様々な企画を伝産の会議に持ち込みました。提案したうちの何個かが採用されればいい方だと思っているので、ボツになってしまった企画もたくさんあります。やはり予算や人材の部分で実現や継続が難しいケースが多いのです。それでも、これが自分のできることだと思っているので、伝産に新しい機会をつくる存在として今後も企画を生み出し続けたいです。」
“ご先祖様からの支持率”は高岡がナンバーワン
「日本各地にものづくりの産地がたくさんある中で、高岡がどんなことなら一番になれるか?と考えた結果、仏具製造シェアNo.1ということは、ご先祖様からの支持率もナンバーワンなのではないかという結論に至りました。高岡ほど仏具の製造会社や問屋が集まっていて、我々伝産ほどそれらを守ろうとする人が集まっているところは他にないと思います。
過去には、“あの世までも持っていきたい、一生モノを超えたアイテム”を届ける「冥土のおみやげショップ スーベニ屋」という企画で職人たちを変装させたこともありました。コロナ禍はクラフトフェアに足を運んでもらうということが難しかったので、その際はZoomを使用したオンライン上で職人と会話をしながらセミオーダー品を購入できるという企画も考えました。その結果、異なる技術を持った職人がタッグを組んで一つのものを作る動きが生まれました。」
時代が変われば、アップデートしなければならないこともある
「1986年から、高岡では『工芸都市高岡クラフトコンペティション』という作品展示や才能発掘の場があり、全国から作り手や作品が高岡に集まるイメージがありました。そこを出発点として、伝統産業をPRするための展示会『くらしに生きる伝統のかほり展』や工場見学ツアー『高岡クラフツーリズモ』など、様々な企画が生まれました。
これまで以上にイベントを成功させるには、時代に合わせてイベント自体も企画内容も変えていく必要があると感じています。そのときの時代背景やトレンドに合わせて、柔軟に変化をしながら、伝産の活動自体が長く続くようになればと思いますね。」
職人が前に出ていくためのデザインとは
「昔から、『職人の名前や顔が前に出るのはあまりいいことではない。作品から見える腕の良さで十分だ』という風潮がありました。問屋を介してやり取りが全て行われていたので、職人が顧客や市場と直接関わる場はほとんどなかったんです。
でも、これからは職人自らが自分の仕事を取りにいけるくらい積極的でないといけない。そう思って作ったのが伝産の会員のための名刺です。それまで、名刺を持っている職人はほとんどいませんでした。名刺を作るにあたり、職人から「誰の名刺なのかわかるよう、思い出してもらえるように顔写真を入れて欲しい」と言われました。顔写真を入れたデザインはすごく悩んだのですが、結局顔写真をトレースし、イラストにする方法を思いつきました。それから、名刺によって伝産の一体感や、名刺を集める楽しさを生むことができました。」
クラフトフェアの会場は立体駐車場?!
「高岡はものづくりの現場が点在しており、お客さんがそれらを車移動などで周遊して工場見学やものづくり体験をするのは時間的にも体力的にも厳しい部分があります。今年初開催のツギノテというクラフトフェアの会場を駅前にある立体駐車場にしたのは、お客さんが足を運びやすくするため一つの場所に集約させたかったという大きな理由があります。そこでお気に入りの職人や作品を見つけた人が、現地へ足を運んでくれることが実際に起これば嬉しいですね。あとは、出店企業同士も物理的な距離が近いので、交流の機会を作って、目的意識を持って参加した企業や人の次の一手がこのイベントから生まれたらいいなと考えています。」
技術を持っている職人になんでもやらせようとしない
「職人向けにブランディングやマーケティングの勉強会を開いたこともありました。そういう知識を持つこと自体は大切だと思いますが、一番の理想は彼らにものづくり以外のことをさせないことだと思っています。県内に1、2人しかいない分野のものづくりに携わっている職人もいますし、後継ぎとして会社経営をしている職人もいます。そういう仲間の時間を奪いたくないという気持ちがあるので、広報やデザインのことは僕らに任せてもらいたいですし、その分職人は腕を磨くことや制作に集中してもらいたいです。」
地方のプロデューサーを生み、育てるプログラムがもっと必要
「職人を育てるプログラムは富山県含め様々な産地に準備がありますが、その反面、プロデューサーの教育についてはあまり手付かずなのが現状です。それについて、最近は行政側にもアプローチし、ディレクター人材を育成するプログラムの開発について議論することが多くなりました。でも、この分野の教育や交流の機会に関してはまだまだこれからという印象があります。自分自身も、プロデューサーとして成長できる機会がもっと欲しいし、同じ仲間が増えたらいいと思いますね。職人らのアツいものづくりに負けずに、プロデュース力をもっと磨いていきたいです。」
高岡伝統産業青年会
ツギノテ
編集後記
伝産のHPを初めて見た時に、かっこよくて、ちょっとコミカルな白黒のイラストに強く惹かれたのを覚えています。伝産のことをもっと知りたい!と思うきっかけになったそのデザインを生み出した羽田さんに今回お話を聞くことができました。外部のデザイナーへの委託ではきっと作れない、現場にいる人だからこそ作れるリアルなイラストやキャッチフレーズをぜひHPやSNSでチェックしてみてください。職人らしさ、高岡らしさや彼らの人柄が伝わる等身大のデザインは、職人との距離感を縮めたり、親近感を感じたりすることができる、外部との架け橋のような役割を持っているのではないでしょうか?このようなハイレベルなアートディレクションとユニークな企画で伝産が新しい方向に向かい、更に輝き続けるのを、これからも注目していきたいと思います。
( ものづくり新聞記者 佐藤日向子 )
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