すべての街に良さがある。旅行会社での経験を活かした「産地の魅力の伝え方」とは?

 
富山県高岡市は、高岡漆器、高岡銅器、高岡仏壇など複数の工房が集まる産地として有名です。そしてこの高岡の伝統産業を支えるキーとなるのが「高岡伝統産業青年会」と呼ばれる団体の存在です。
 
高岡伝統産業青年会(通称 高岡伝産:以下 伝産)は、高岡市の職人や問屋が集まる団体で、今年(2023年)創設50周年を迎えました。元々は地元の職人がメインの集まりでしたが、職人の人柄や技術力に魅力を感じた人が他の街から移住したり、地元の人が自分の専門分野で活動してくれたりという動きもあり、近年ではメンバーの顔ぶれも多彩になりました。卒会制度があり、40歳までの人だけが参加できる、高岡の熱い若者が集まる団体です。
 
彼らが本業を続けながら同時に伝産での活動に命を燃やすのは、高岡の伝統産業を、高岡という街を、ものづくりの産地としてさらに盛り上げるため。しかし、業界の縮小や安価な外国産の商品流入により、その高い技術力を生かせる場が減ってきています。この現状を打破するには、これまでの受注中心のものづくりだけではなく、新たな販路開拓や技術の開発など、新しいアクションを起こさないといけません。日々目の前の仕事をこなすだけではなく、長期的な視点で家業や、伝統産業、街のことを想う熱い人が、伝産にはいます。
 

株式会社ナガエ/高岡伝統産業青年会 松原 宏尚さん

今回は、ダイカスト・金属・ものづくりの総合メーカーである株式会社ナガエで働く傍ら、複数の工場を周遊し、職人と一緒にものづくり体験ができるイベント「高岡クラフツーリズモ委員会」の委員長をされている松原 宏尚(まつばら ひろなお)さんにお話を伺いました。
 
 
松原宏尚さん
1988年生まれ。新潟県三条市出身。旅行会社での勤務を経て、2017年に結婚のタイミングで高岡に移住し、株式会社ナガエのアート事業部に入社。伝産加入は2019年。松原さんイチオシの高岡グルメはホタルイカのお寿司。初めて食べた時は、稲妻が走ったような衝撃的な美味しさだったんだとか。趣味は旅行。国内でも海外でも、その地の日常感が味わえる旅を好んでいる。
 
 
「クラフツーリズモ」とは
普段は見ることのできない伝統産業に携わる工房を、この日だけ特別に一般公開し、皆様を職人自らがご案内します。各工房では金属の溶ける熱気や土の焼ける匂い、素材を巧みに操る職人の技を間近で感じ、現場からの声を聞くことができます。(引用元:高岡伝統産業青年会
2022年のクラフツーリズモのコースター作りの写真。高和製作所さん、モメンタムファクトリーOriiさん、大越仏壇さんを回り、高岡の分業制度を体験できるコースです。
2022年のクラフツーリズモのコースター作りの写真。高和製作所さん、モメンタムファクトリーOriiさん、大越仏壇さんを回り、高岡の分業制度を体験できるコースです。
 
編集部メンバーが現地で作ったコースターがこちら。金箔があしらわれた猫ちゃんがいいアクセントになっています。銅板の模様や色の出方は人それぞれで、唯一無二のコースターが作れます。
編集部メンバーが現地で作ったコースターがこちら。金箔があしらわれた猫ちゃんがいいアクセントになっています。銅板の模様や色の出方は人それぞれで、唯一無二のコースターが作れます。
 
2022年の編集部メンバーによるクラフツーリズモの体験レポートはこちらです。3つの企業を回りながら分業制度を体験できる、濃い1日を詳しくまとめています。
 

仕事でも趣味でも日本各地を飛び回る

「前職の旅行会社ではお客様の旅行の手配をする仕事をしていたのですが、職業柄、気に入った場所は人にも勧めたいという気持ちがあったこともあり、趣味でも国内外へ旅行していました。海外旅行では、東南アジアの人と市場がごった返す雑多な感じが好きです。何度か行ったことがあるハワイにもまたいつか訪れたいです。その街の地元の人の生活を真似できるような、日常感のある旅行が好きですね。」
インドネシアのボロブドゥール遺跡にて。(提供元:松原宏尚さん)
インドネシアのボロブドゥール遺跡にて。(提供元:松原宏尚さん)
松原さんがタイで食べた、カオソーイ(提供元:松原宏尚さん)
松原さんがタイで食べた、カオソーイ(提供元:松原宏尚さん)

結婚や出産のタイミングで妻の地元である高岡へ移住

「仕事の転勤で、色々な街を点々とする生活はとても刺激的で楽しかったのですが、妻との結婚のタイミングで子育てのしやすさを重視し、どこかへ定住することを決めました。妻の地元である高岡に移住し、それに合わせて義理の父が専務をしている株式会社ナガエへ転職しました。アート事業部では、オリジナルブランドの商品の販売先の新規開拓などをしています。」
 
株式会社ナガエ
昭和29年創業。ダイカスト・金属・ものづくりの総合メーカー。美術工芸品からインテリア雑貨まで、金属を中心に様々な素材で制作。企画から仕上げ加工までの一貫生産が可能。伝統工芸が現代の暮らしでも取り入れやすいモダンなデザインで作られたブランド銀雅堂なども運営。(引用元:株式会社ナガエ
 
銀雅堂の人気商品「さかさ富士」シリーズ。手軽に花を生ける楽しみを感じられ、一輪だけでもかっこよく仕上がるデザインが特徴。
銀雅堂の人気商品「さかさ富士」シリーズ。手軽に花を生ける楽しみを感じられ、一輪だけでもかっこよく仕上がるデザインが特徴。

ものづくり産地に生まれて。三条と高岡の共通点

「地元は新潟県三条市です。三条と高岡は、ものづくりの産地であるだけでなく、分業制が残っていたり、金属加工というジャンルが多く作られているところからも似たような雰囲気を感じます。もちろん、金属加工といってもいろいろなものがあるので、全く同じというわけではないんですけどね。ざっくりではありますが、金属加工の中でも高岡は金属を溶かしたり叩いたりするものが多く、三条は板を加工しているようなイメージがあります。
それから、規模の違いはあれど、伝産やKOUBAのような団体が産地をリードしているというのも共通点のように感じます。しかし、高岡は産地ではあっても、それをお客さんが直接買える小売店がほとんどありません。顧客との距離感の視点で考えると、小売店がすでに多くある新潟県が少し羨ましいです。」
 
「三条市に住んでいた頃は、学校の校外学習などで工場見学をたくさんした記憶があります。中でも印象に残っているのは、ペンチ、ニッパーの国内シェアトップを誇るマルト長谷川工作所と、定規などの測定機器メーカーとして有名なシンワ測定株式会社での工場見学です。制作工程を見て、時が経ち、大人になってから実際にその工具が取引先などの現場で使われているのを見ると、ものづくりがまた別のものづくりを支えているというのを垣間見れた気がしました。」

伝産会員として得られた信頼やつながり

「伝産加入前は、社内外には伝産に関してネガティブなイメージを持つ人もいました。本業との両立が難しいためです。それでも私が伝産に入ったのは、そこでのつながりで幅広い職種の方と顔見知りになることで、仕事がしやすくなると思ったからです。実際に、出身が高岡ではない私にとって、伝産に属していることは結構重要で、卒会された昔の会員の方などとお仕事をする際は信頼していただけたりもして、伝産つながりというきっかけから会話が弾むようにもなりました。」
 

大人になるとなかなか味わえない、みんなでやりきったときの大きな達成感

「大人になると平坦な日々が続き、その中で、学生時代にあった部活動の大きな大会の後のような達成感を味わえることはなかなかありません。伝産の活動はイベント前後だと特に身を削っているので、とても大変だなと思うこともあります。ですが、その分会員と力を合わせ、なんとか一つのイベントを乗り越えられたときの気持ちはここでしか味わえないものだと思います。」
 
(提供元:高岡伝統産業青年会)
(提供元:高岡伝統産業青年会)

父親として、三条出身者として、高岡移住者として、これからしたいこと

「小さい子どもを持つ親としては、子どもを連れて行く先はいつも悩むものなので、小さい子どもとその親御さんをターゲットにしたものも高岡で企画してみたいです。三条でもつながりがあり、いくつかのものづくり関連の活動に参加しているので、機会があれば生まれ故郷でもイベントを開催してみたいですね。
それから旅行好きという視点では、旅行中に伝統産業を感じたり体験できたりするようなイベントをしてみたいです。高岡に旅行に来る人に高岡のどんなところを紹介できるか?という視点でこれからも活動を続けていけたらと思います。」
 

編集後記

松原さんが取材中に高岡のことを自然と「地元」というふうにおっしゃっていたのが印象的でした。旅行代理業、メーカーのアート事業部、クラフツーリズモと、幅広い分野で活躍されている松原さんの、臨機応変に最善を尽くす姿勢は、専門性を持ち一つの技術を磨き続ける職人とは対照的に映りました。しなやかに変わり続ける勇気と、一つのことを突き詰める覚悟はどちらも同じくらい素敵だと思いました。
( ものづくり新聞記者 佐藤日向子 )
 
ものづくり新聞では、アンケートキャンペーンを実施中です。2023年12月15日までこちらのアンケートで記事の感想をお聞かせください。抽選で5名様に素敵なプレゼントもご用意しています。皆様からのご応募、お待ちしております!(※こちらのキャンペーンは終了しました。たくさんのご応募ありがとうございました。)

この記事をご覧になった方への編集部オススメ記事

あの手、この手、「次の手」で、ものづくり産地の未来を切り拓く。高岡伝統産業青年会主催 “ツギノテ” 潜入レポート
 
高岡市にただ一人の蒔絵師が、真夜中から制作を始めるその理由とは
 
レシピのない世界で“色”を操る着色師。元料理人は20代前半に強すぎるメンタルをどのように獲得したのか?
 
デザインの力で高岡を魅せる!伝統産業を未来へ繋げるプロデューサー
 
伝統産業を守る作り手の想いを追いかけ、高岡伝産に出会う。
 
“Oriiブルー”で建築物に深みと彩りをもたらす職人。釣り人が地元にUターンして見つけた高岡の魅力とは?